2022年7月29日に開催された「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のオンラインイベント「グローバル時代の組織と経営システム」。その中のパネルディスカッションでは、谷村圭造氏(アサヒグループホールディングス 取締役 兼 執行役員 CHRO)、横田貴之氏(資生堂 取締役 兼 執行役員 兼 CFO)、横山之雄氏(日清食品ホールディングス 取締役 兼 CSO グループ経営戦略責任者 兼 常務執行役員)と、HR・ファイナンス・戦略のエキスパートが登壇。前編に続く後編では、「縮む母国・日本を、市場としてどのように位置づけるか?」について議論が繰り広げられた。(進行/ボストン コンサルティンググループ パートナー&アソシエイト・ディレクター 日置圭介、文/相澤摂、撮影/堀哲平)
日本は「課題先進国」として
大きな価値がある
ボストン コンサルティング グループ 日置圭介(以下、日置) 続いてのテーマは、「縮む母国・日本を、市場としてどのように位置づけるか?」です。
ボストン コンサルティング グループ パートナー&アソシエイト・ディレクター。税理士事務所勤務から英国留学を経て、PwC、IBM、デロイトでコンサルティングに従事。2020年6月よりボストン コンサルティング グループにパートナー&アソシエイト・ディレクターとして参画。日本CFO協会主任研究委員、日本CHRO協会主任研究委員。著書に『ワールドクラスの経営』(橋本勝則、昆政彦との共著)など。
日本が老い縮んでいくことは、もう50年以上前から明らかになっていましたが、根本的な策が打てないまま現在に至り、高齢化と人口減少はこれから本番を迎えるという状況です。
「縮むこと」は必ずしも悪い面ばかりではありません。ただ問題は、その変化が急激なこと、そして、周囲の国が成長する中で日本ばかりが縮むということです。
「グローバル経営」というと、どうしても海外が議論の中心になりますが、世界との相対において急激に縮んでいく日本を、市場として、また、経営資源の配分という観点から、どう位置づけ直すのか? この点については、あまり国内で議論されていないように思います。ぜひ皆様のご意見をお聞かせください。
日清食品ホールディングス 横山之雄(以下、横山) 私は日本を本拠とすることについて、必ずしも悲観的な見方をしていません。
確かに食品メーカーにとって人口減少は大きな問題ですので、私たちもターゲット拡大のためのさまざまな施策を進めてきています。
例えば、即席麺のメインターゲットはもともと20〜40代ぐらいの男性でしたが、シニア層やより若い層、そして女性にも手に取ってもらえるよう、製品開発なども行ってきました。その甲斐もあって、国内の即席麺全体の消費量は減ることなく、当社も成長を維持できています。
しかし、それだけではいずれ限界が来るのは明らかです。国内での成長維持を図るとともに、海外での収益をしっかり拡大するための種をまく、という両輪でまさに取り組んでいるところです。
日本には「課題先進国」としての価値があります。例えば、高齢になれば高い確率で、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)の機能低下が起こります。こういった、ご高齢者の特性に配慮したエイジフレンドリーな食品を開発販売するには、日本の市場の価値は大きいのです。
また、少子高齢化に伴う社会保障費の増大も、私たちが注目する課題です。病気になる前の「未病」の状態を維持してさらに改善できれば、医療や介護にかかる費用の削減が期待できます。ただし、我慢することばかりですと、どうしても人は続きません。ですので、好きなものを、好きな時に、好きなだけ食べながら、心身の健康を維持できる、そのような完全栄養食を開発するプロジェクトに今、取り組んでいます。
このように、新たなビジネスを育むインキュベーションとしての役割を、日本は担えるはずです。
アサヒグループホールディングス 谷村圭造(以下、谷村) 2022年1月、アサヒビールやアサヒ飲料などのグループ各社を傘下とする「アサヒグループジャパン」がスタートしました。