「形」だけグローバル化しても
「魂」を入れなければ強さにはつながらない

日置 横田さんがおっしゃったように、「自社にとっての『グローバル』をどう定義するか」が、これまで以上に重要になっていると思います。事業はもちろん、顧客、地域、組織、競合などの観点から、何をどこまでグローバル最適するのか、そのためにどのような仕組み・体制を取るのかなど、「自社だけの答え」を見つけていくしかありませんよね。

 こうしたことは、コーポレート部門だけでできる話ではないので、司令塔として押さえるところは押さえ、権限委譲できる部分はローカルに委ねる、といったポリシーを明確に示すことが重要なのかもしれません。

横山さん

横山 われわれのような食品メーカーの場合、世界中どこでも同じ味・同じサービスといった画一的なやり方では難しいので、嗜好などは、文化に応じたローカライズが欠かせません。

 ただし、世界共通のパーセプションや信頼に値する価値を形成し、それらを浸透させるためには、ブランディングでいうところのコア・アイデンティティ、つまり「自社ブランドでもっとも核となるポイントをどこに持つか」がとても重要です。

 例えば日清食品であれば、独自の遊びや学びといった、その時代の若者の行動や嗜好に共鳴することを大事にしています。ここはマーケティングの戦略の根底にあるものなので、変えることはありません。一方で、商品のフレーバーや販売方法は現地に合わせていきます。その場合、各市場における会社の成熟度、経験やシェアに応じて、オートノミー(※自主性・自律性)と統合のバランスを取るということになるでしょう。

谷村 おっしゃる通りで、加えて私が感じるのは、「何をもってバランスが取れているとするか」が重要なのではないかということです。バランスの良し悪しを評価する軸をしっかりと持っていないと、糸の切れた凧(たこ)になりかねません。

谷村氏

 さらに理想をいえば、それが、企業理念や自社の強みにひもづいた評価軸であることです。そうでないと、何のためのグローバル化がわからなくなってしまいます。

 世界で自社ならではの強みを発揮し、バリューを示して社会にも貢献できるグローバル化であれば、評価軸もそれに則したものでなければなりません。「形」だけグローバル化してバランスを取ろうとしても、「魂」を入れなければ、強さにはつながらないし、誰も喜ばないという結果に終わってしまうでしょう。

 あとは、その評価軸を「見える化」することも重要です。本社の経営部門やコーポレート部門が、「当社のグローバルとローカルのバランスは、こういうことなんです」と可視化する。そうすることで、机上の空論に終わらない、「判断のよりどころ」をしっかりと示すことができます。それらを押さえた上で、やれるところから取り組んでいく。やれるところからやる、というのが大事で、きれいな仕組みがつくられるまで待っていたら、その間に世の中はどんどん変化してしまいますからね。

日置 とても重要な指摘です。正解はないので、走り続けながら、自分たちでグローバル化の意味づけをしていくしかない。ある意味、経営の永遠のテーマといえるかもしれません。

 その際、グループ全体でも個々の社でもなく、事業や機能ごとに、統合と適応のバランスは違ってくるはずです。それぞれが(評価軸を)定めてみて、それを積み上げたときにどのような企業体ができるか、このことを議論していくことが必要だと思います。

 続いてのテーマは、「縮む母国・日本を、市場としてどのように位置づけるか?」です。

10月6日公開予定の後編もぜひご覧ください。