ゴミ屋敷は猫屋敷!家主が突然倒れた

 最初にオープンしたお店の近くに、有名なゴミ屋敷があった。気にはなっていたが、どうアプローチしていけば良いかわからずにいたら、ある日、ゴミ屋敷の家主・Mさんに声をかけられた。

 それがきっかけで、彼と話をするようになった。少しずつ信頼を得るようになり、彼が世話をしていた地域猫12匹の避妊去勢手術を完了することができた。Mさんはその後心不全で倒れて入院。しかし、素行が悪いと入院先を追い出されてしまった。

 自宅のゴミの海の中で倒れていたところを私とスタッフで引っ張り出し、救急車に乗せて別の病院に入院させたが、最終的には帰らぬ人となった。彼のせいではない、いろんなことに翻弄され、生きてきたMさん。要塞のようなゴミ屋敷は、彼の心のバリケードだったのだろう。心配していたMさん宅に出入りしていた地域猫たちは、Mさんがこの世を去ったらさっさと別のエサ場に移動していった。

 なお、地域猫とは、地域住民やボランティアなどが決まった時間に給餌し、糞尿の始末や不妊手術をしている管理された猫のことである。「猫は地域に暮らす生き物」として、一代限りの命を地域住民で見守り全うさせようという行政と連携した取り組みだ。

 Mさんが気にかけていた猫たちも、板橋区保健所の指導・協力を仰ぎながら進めていたもので、子猫は全頭引き上げたが、成猫たちは不妊手術済みの証の耳カットを入れ、今も地域に生きている。

犬と猫とゴキブリ屋敷、壮絶な状況とは

 重度の統合失調症を患っていたIさん(40代女性)は、よく私に電話をしてきた。猫3匹、犬2匹を飼っていると言うが、現実と妄想の世界を行ったり来たりしているような会話の内容から、飼育環境が良くないことは想像できた。

 ある日、生活保護課の彼女の担当者から電話があり、Iさんが入院したと聞いた。同じく生活保護受給者で透析患者である彼女の母親が、残された犬猫の世話をしているという。

 時は12月。嫌な予感がして、担当者と駆けつけたが案の定、ミニチュアピンシャーが寒さと飢えで死んでいた。もう1匹のポメラニアンは保護活動を行っている団体に託し、猫3匹は動物病院に入院させ、Iさんには犬猫の所有権を放棄してもらった。

 自宅はゴミ屋敷ではなかったが、ゴキブリ屋敷だった。数万単位と思われるチャバネゴキブリが、どこもかしこもびっしり。退院したらきれいな部屋で衛生的に人生をやり直せるよう、清掃を受託して私とスタッフで特殊清掃に近いハウスクリーニングを行った。

 そして彼女は無事退院した。Iさんの犬猫たちも全頭里親が決まり、安堵したのもつかの間。深夜に携帯が鳴った。Iさんのお母さんからだった。

 居住していたマンションの5階から、Iさんが飛び降りたという。遺体は警察に安置されているというので、お母さんを車で迎えに行って、警察署に向かった。遺体はきれいだった。何度も自殺未遂をしていたIさん。やっと安らかに眠れたのだろうか。