インフレ時代への転換が資産運用にもたらす大変化、預貯金の資産「目減り」リスクPhoto:PIXTA

ディスインフレをもたらしたグローバル化の時代は終わった。サプライチェーンの見直し、長期的な人口減少による労働不足などでインフレ時代への転換が進む。そのディスインフレからインフレへの変化が資産運用にもたらす変化について解説していく。(クレディ・スイス証券株式会社 ウェルス・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン〈日本最高投資責任者〉 松本聡一郎)

インフレ抑制のための利上げを
十分に織り込んでいないマーケット

 インフレなき成長を謳歌(おうか)したグローバル化の時代は、終焉を迎えた。マーケットは、しつこいインフレと金融引き締めの長期化の影響を織り込もうと、もがいている。

 このしつこいインフレの現在地は、財の価格上昇が止まり、ピークに近づきつつある。当初、懸念されたサプライチェーンのボトルネックは緩和され、サプライヤーの納期は短縮、在庫は増加している。

 需要は、特に欧州の消費者において軟化していくだろう。また原油などのコモディティー価格も、高値から下落している。このまま推移すると、インフレ率はピークアウトし、製造コストも低下に向かうだろう。

 一方で、価格の低下がゆっくりとしか進まない、またはなかなか進まないものもある。米国の住居関連の価格(賃貸料)のインフレは、その低下がゆっくりとしか進まないだろう。この項目は米国の消費者物価指数で3割を超えるウエートを占めている。

 FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げで、米国の住宅ローン金利は急ピッチで上昇し、住宅取得コストを押し上げ、需要を抑制し始めている。不動産価格は下落の兆候が出始めているが、これが賃料の引き下げに反映されてくるには、かなり時間がかかるだろう。

 またサービス価格の上昇は、長期的なトレンドを上回る水準が続くだろう。人口動態の変化から、人手不足の解消が難しくなっており、欧米では労働市場の堅調さが続いている。

 このためインフレ率の低下ペースは、非常に緩やかなもので、2023年になっても中央銀行の目標水準を上回っているだろう。

 マーケットは、インフレ抑制のため中央銀行が急ピッチで利上げを進めていくことを織り込んできた。しかし、まだ十分とはいえない。

 利上げによる成長鈍化もしくはリセッション入りのリスクを織り込んだマーケットは、同時に23年に景気下支えのための利下げ転換期待を捨ててはいないようだ。しかしこの期待は、インフレの長期化により裏切られるだろう。

 次ページ以降では、インフレ圧力が戻ってきた背景を分析するとともに、インフレ時代への転換が資産運用のあり方にどのような影響をもたらすかについて解説していく。