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政府が21.3兆円規模の総合経済対策を閣議決定する見通しとの報道を受けて、財政悪化懸念とインフレ懸念が市場を揺らした。円安進行、JGB(日本国債)利回り急騰、株安が同時に進む「トリプル安」も観測されるなか、株式・為替・金利の3市場はどこに向かうのか。投機筋の動向、高市政権の政策の影響、米金融政策との相互作用を踏まえ、先行きを多角的に検証する。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
「トリプル安」のうち最も
先行き楽観的な株式市場
11月20日に「政府が21日にも閣議決定した総合経済対策の規模は大型減税の効果を含めて21.3兆円ほどになる見通しだ。財源の裏付けとなる2025年度補正予算案の一般会計歳出は17.7兆円ほどで、24年度の13.9兆円を上回る」と報じられた。
巨額の財政支出がもたらす財政ポジション悪化懸念、そしてインフレ懸念から、為替市場では円が売られ、日本国債(JGB)市場では10年債利回りが大きく上昇した。
米国の大手AI企業の好決算を受けた米国株価指数先物の上昇を受け、日経平均株価は持ち直す場面も見られたが、一時は円、JGB、日本株の全てが売られる「トリプル安」が観測されており、今後の市場への不安も大きくなりつつある。
ここで、市場ごとの先行きについて考えた場合、最も楽観的となりそうなのは株式市場であろう。
18日と19日にかけて日経平均株価は大幅に下落したが、19日の終値ベースでのドル建て日経平均株価(308.8ドル)は自民党総裁選(10月4日)前の水準(310.4)を下回っており、つまり、高市政権(10月4日時点では高市新総裁)誕生を受けて、期待先行で記録した上昇分を全て吐き出してしまった格好だ(図表1参照)。
20日には大手AI企業の決算を受けて上昇した米国株価指数先物を眺めながらリバウンドし、再び「自民党総裁選直前」を上回ったが、高市政権が21.3兆円を使って創出する「需要」への期待に鑑みれば、「長期金利上昇や円安のデメリット」を考慮に入れて、これまでの上昇分を吐き出したことで、ある程度の調整が済んだとみることもできる。
何より、株式はインフレ資産であり、為替市場や債券市場で懸念される「インフレ」が基本的には価格の押し上げ要因となる。ハイパーインフレに陥った国ですら株価が上昇するのが常であり、今後、本邦要因だけで深刻な株安に向かう公算は小さいものと予想される。
では、為替市場、金利市場はどうか。次ページでは両市場の先行きについて検証する。








