人口動向は経済を予測する上で、重要な指標だ。世界経済をけん引する中国やインドは人口増加が続く一方で、日本は人口減少が止まらない。これに伴い労働力不足が懸念され、さらに資源に乏しい日本において、今後、どうエネルギーを確保するかも大きな課題だ。(マーケット・リスク・アドバイザリー共同代表 新村直弘)
国連の人口統計が示した
中国とインドの「W人口ボーナス期」
将来の商品需要動向を考える上で、弊社が最も確度が高い指標として重視しているのが国連の人口統計だ。経営学の大家であるピーター・ドラッカーも人口の変化を労働力、経済を予測する上で信頼できる指標として重視している。
その重要な指標である国連の人口統計と見通しがこのほど、発表された。この統計は通常2年ごとに更新されるが、今回はコロナの影響もあり3年ぶりの更新となった。
最も注目したのは、世界経済の成長ドライバーである中国の人口動向だ。
国連のまとめによると、商品需要の伸びが最も顕著になると考えられる人口ボーナスのピーク(15歳以上64歳以下の国民の数=生産年齢人口)をその他の年齢の国民の数で除した数値「人口ボーナス指数」について、中国の最も高くなる年が前回2010年だった。今回の統計では2009年に1年早まっている。労働人口のピークは2015年で、前回の統計と変わっていない。
生産年齢人口の比率が非生産年齢人口の2倍を下回る「人口オーナス期」入りについては、中国の人口オーナス期入りは前回が2032年だったが、今回の統計で2035年に3年延長された。
これは1人っ子政策をやめ、2人の子どもを産んでも良い政策に転換したことがある程度影響したとみられる。
人口オーナス期入りが繰り下がったことにより、中国の構造的な経済成長の期限は、2035年だ。つまり今後13年程度続く見通しで、中国の構造的な国力衰退のタイミングはやや後ろ倒しになることになりそうだ。
人口動態の減速は構造的な成長力の低下をもたらすため、中国の人口オーナス期入りがやや延期されることは、政権の政策的な自由度がある程度増すことを意味する。
中国に次ぐ世界経済の成長ドライバーとして期待されるのが、人口増加が続くインドだ。
インドの人口ボーナス期入りは2019年とされ、前回の統計で示された2018年から1年遅くなった。これに対し、人口動態のピークは前回の2035年から3年早い2032年になった。
人口オーナス期入りは52年で、前回の2056年から4年早くなっている。インドは人口ボーナス期を享受できる期間が、前回の統計発表時の2038年から2033年へと5年も短縮したことになる。
中国は1996年に人口ボーナス期入りし、その終了が2035年だ。中国の成長期間は39年と、実はインドよりも長いことになる。
これらのことは、中国の構造的な需要の増加は前回の想定から長くなり、インドとの「W人口ボーナス期」の期間が長くなる、ということである。中国とインドが人口ボーナス期にいる2035年までの13年間は、近代化のためのインフラ投資に必要な工業金属の需要は、これまでの想定以上に増加することが予想される。
その後はインドが想定よりも早く人口ボーナス期を終了するため、工業金属需要の増加はこれまでの想定よりも早く減速する見通しとなることを示唆している。
なお、インドが将来、中国のような「世界の工場」になる素養はあるがまだなんともいえない。