M&A後に社内を
見て後悔する羽目に…

 だが、社内を見せてもらうことができなかった。国内の同業であり、私が行くとなると何かあるのではないかと社内が動揺する、と断られたのである。今になって考えてみれば、私がオフィスに顔を出しただけで人心が揺れるほど、会社は苦しい状況になっていたのだ。主要な仕入先の一社から取引の契約解除を通告されていたからである。

 その会社の社内をしっかり見ておかなかったことを、私はM&A後に後悔することになる。まったく環境整備がなっていなかったからである。机の上にはいろんな書類が山積みになっており、お客様からの注文書もトレーに入れられずに無造作に置かれていた。

 他の条件はすべて良さそうに見えたのだが、やはりそれだけではダメなのだ。以来、M&Aをする際には、必ず社内を見に行くようにした。

 結果的に、このM&Aはうまくいかなかった。何よりも、主要な仕入先が次々と離反してしまった。そして、すでにできあがっている企業文化を変えることは難しい。数年にわたって、私は頭を抱えることになった。やるべきことをやらなかった結果が、これだった。

 しかしながら、救われるのは、中に優秀な社員たちがいて、その後も会社に残って活躍を続け、会社の発展に貢献してくれたことである。