「体に悪くない」という説はうそ?たばこメーカーの戦略も

「本当のたばこの話をしよう 毒なのか薬なのか」(日本評論社)という著書もある、片野田氏はエビデンスが増えてきたとして、「水蒸気だから体に悪くない」という説を明確に否定した。

「基本的にたばこの葉を焼いていたのを、デバイスという機械で蒸しているだけなので、ニコチンも有害物質も確実に出ています。しかも、最近の研究では、紙巻きたばこ同様に、受動喫煙の害があることまでわかってきています」(片野田氏)

 その代表的な研究が、紙巻きたばこ・加熱式たばこを使用している父親の家族と、非喫煙者の父親の家族の「尿」のニコチン濃度を調べたものだ。紙巻きたばこを使用している父親の家族が尿中ニコチン代謝物の濃度が一番高いことは言うまでもないが(これ自体も大問題である)、加熱式たばこを使用している父親の家族もかなり数値が高かった。

 つまり、「水蒸気だから体に悪くない」というのは科学的根拠のない話であって、周囲の人々は紙巻きたばこ同様、ニコチンを吸い込んでいるというわけだ。

 ちなみに、片野田氏によれば、ニコチン濃度は製品によって異なる。

「それは各社のマーケティング戦略が関係していると思われます」(片野田氏)

 実は世界最大のたばこメーカーであるフィリップ・モリスは21年に、「10年以内に日本で紙巻きたばこの販売から撤退する」と宣言して、アイコスへと完全移行をする。

「ニコチンは吸い込むと10秒くらいで血液を通して脳に到達し快楽を生み出します。と言っても、これは一時的なもので、しばらくするとまたニコチンの血中濃度が下がってイライラが始まります。これを繰り返すことでたばこへ依存していくことになります。つまり、ニコチンは、たばこ製品の満足度というところでは非常に重要な成分なのです」(片野田氏)

 ただ、加熱式たばこの受動喫煙被害を聞いても、納得しないアイコスユーザーも多いだろう。フィリップ・モリスは、紙巻たばこと比べて発生する有害性成分の量は大幅に少なくなると主張しているからだ。

 片野田氏も「科学的に見ると確かに減っている」と言うが、だからと言って、「体に悪くない」のではないと強調する。

「実は紙巻きたばこの有害物質は異常に高い数値なので、それが大幅に減っても日常生活でありえないレベルの有害物質が含まれていることは変わりありません。例えば、居酒屋で加熱式たばこを吸うということは、店内にいる全員で発がん物質を“共有”しているようものなのです」(片野田氏)