「たばこ事業法」が守るグレーゾーン

 ただ、実際に喫煙者にたばこを止めてもらうには、「禁止」や「規制」という従来の強制力のあるやり方から変えていく必要があるのではないか、と感じているという。

「禁煙治療の現場で医療者の方からよく聞くのは“禁煙という言葉を使いたくない”という感想です。喫煙者に対して“禁煙”という言葉を発した時点で、わかりやすいくらいに喫煙者の気持ちが引いていくそうです。

 喫煙者にとって“禁煙”というのは苦痛以外の何ものでもないので、生理的に受け付けない。そういう言葉を用いずに、もっと自然な形で、努力をしないで気がついたらニコチン依存から抜け出すことができた、というくらいの“いやし系”の方法があるといいなと思います」(片野田氏)

 ひとつの参考になるのが、イギリスだ。日本の厚労省にあたるナショナル・ヘルス・サービスでは、禁煙治療で「電子たばこ」を推奨している。こちらは加熱式たばこのように「たばこの葉」は入っておらず、抽出したニコチンだけなので有害物質もない。

 たばこ製品を大幅に値上げして、代わりに安い電子たばこを流通させ、徐々にニコチンを減らして離脱させていくのだ。ただ、日本の場合、世界一巨大な加熱式たばこ市場が誕生した「副作用」で、欧米でメジャーな「電子たばこ」がほとんど流通していないという問題もある。

 いくら健康被害のエビデンスが積み上がろうとも、「たばこ事業法」が存在する限り、日本のたばこは「グレー」のままだ。そのダブルスタンダードをさらに複雑にしているのが、「煙が出ない」「有害物質が少ない」をうたう、加熱式たばこと言ってもいいかもしれない。

 このあたりの白黒をはっきりつけていかない限り、今後も加熱式たばこをめぐるトラブルや対立は増えていくのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)