秀島史香さん秀島史香さん(写真:著者提供)

 生放送直前に、「噛まないように、噛まないように」と暗示をかけていたら、不思議なことにほとんどの場合、噛んでしまいます。自分で自分の頭に「噛む」を刷り込んでしまっているんですね(恐ろしい!)。そのことに気づいてから、「穏やかに、一言一言を丁寧に言おう」と意識するようにしました。すると、噛まないし気分も落ち着くようになったのです。

 いざ本番の瞬間、自分の集中力をひとつに定めるためにも、「~しない(Not~)」を使う代わりに、「~でいる(Be~)」「~する(Do~)」という肯定表現で言い直します。

 最終的に目指したいのは、「噛まない」という状態ではなくて、「丁寧で穏やかな放送」。だったら最初から「噛む」という言葉を自分の意識に入れないことで、「噛んだらどうしよう」という不安がよぎる隙もなく、目標に一点集中、前に進むためのギアが自然に入ります。

<緊張しないでね>

 ではなくて、

<ゆっくり、落ち着いていこう>
<慌てて、凡ミスしないでね!>

 ではなくて、

<いつもの通り、丁寧にやれば大丈夫!>

なぜか聴きたくなる人の話し方『なぜか聴きたくなる人の話し方』
秀島史香
定価1540円
(朝日新聞出版)

 そんなこと?と思うほど単純ですが、「◯◯しない」ではなくて「◯◯する」への言い直しは、驚くほど効果があります。

 他にもこの言い換えメソッドは日々のあらゆることに応用できます。「遅刻しない」ではなくて「10分余裕を持って行動」。「食べすぎない」ではなくて「よく噛んで味わう」など。

「◯◯しちゃダメ!」と禁止令を自分に課すとやはりストレスになりますし、「望まないのに体が勝手に……」と悲しい事態になってしまうもの。

 その代わりに目指す「こうありたい状態」を言葉にすれば、グラグラ迷うことなくまっすぐに向かっていけるもの。言葉を味方につけるってこういうことなのかなと思っています。

【ここまで聴いてくれたあなたへ】
避けたい状態は、そもそも言葉にしないこと。

(構成/小川由希子)

秀島史香

秀島史香(ひでしま・ふみか)
ラジオDJ、ナレーター。1975年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。慶應義塾大学在学中にラジオDJデビュー。映画、テレビ、CM、美術館音声ガイドなど多岐にわたり活動している。現在FMヨコハマ『SHONAN by the Sea』、NHKラジオ『ニュースで学ぶ「現代英語」』、NHK Eテレ『高校講座 現代の国語』などに出演中。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』『なぜか聴きたくなる人の話し方』(共に朝日新聞出版)。ハスキーで都会的な声質、あたたかい人柄とフリートークが、クリエイターからリスナーまで幅広く人気。

AERA dot.より転載