従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資を指す「ESG投資」が注目されている。はたして本当に、投資家にとって高いリターンにつながるのだろうか。
※本記事は『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』(PHP新書)からの抜粋・転載です。
ESG投資は高いリターンを見込めるのか
2006年当時から今まで、機関投資家は「リターン追求」という大命題を取り下げたことはない。PRI(責任投資原則、2006年に国連が金融業界に対して提唱したイニシアティブ)が発足したときも、ESG投資を推奨する理由は「さらなるリターンの追求」だった。ではなぜ、ESG投資が高いリターンにつながるのだろうか。
そのカラクリは、見ている時間軸の違いだ。数十兆円、数百兆円を運用するアセットオーナーは「ユニバーサルオーナー」と呼ばれている。その理由は、運用資産が巨額のため、自ずと非常に幅広い企業に分散投資をする以外に術がないからだ。そのため、事実上、市場全体に投資している状態となる。
実際、日本の公的年金基金GPIFは、2022年6月末時点で47兆7615億円分の国内株式を保有している。そのときの日本の上場株式の時価総額の全体が700兆3813億円なので、GPIFだけで日本の上場株式全体の6.8%を保有していることになる。
ユニバーサルオーナーにとって、高いリターンをあげるための常套手段は、株価が上がりそうな企業をみいだすことではない。そもそも分散投資をせざるを得ないので、株価が上がりそうな銘柄を選んでいる場合ではない。ユニバーサルオーナーが高いリターンをあげるためには、市場全体の底上げをしなければならなくなる。美味しいパイを選り好みするのではなく、パイそのものを大きくしていかざるをえないのだ。