【相続対策その5:信託契約をする】

 相続対策として、信託契約が少しずつ注目されつつある。信託契約とは、委託者の財産を受託者に預けて、指定した受益者のために管理や運用をしてもらう契約のことだ。信託契約には銀行などを受託者とする商事信託と、家族など身近な人を受託者とする民事信託がある。同性パートナーどうしでは、民事信託を利用することが多い。

 遺言書や死因贈与契約が効力を発揮するのは、被相続人が亡くなった後だ。生前に認知症などで自分で財産の管理や運用ができなくなった場合などを考えると、信託契約を結んでおくことは自分やパートナーの生活を守る上でかなり有効だろう。

 委託者と受益者は同一人物でもよいため、同性パートナーとそれぞれお互いに「委託者・受益者=自分」「受託者=パートナー」という信託契約を結ぶというのが、最もシンプルな形だ。ただ、これではどちらかが病気や認知症になったときに、うまく機能しなくなってしまう。そのため、自分と同性パートナーの共同出資で一般社団法人を設立して、受託者とするというケースが近年は散見されるようになってきた。

 つまり、設立した一般社団法人を受託者とし、自分を委託者・当初受益者とする信託契約をお互いがそれぞれ結ぶのだ。随時、お互いの収入を信託財産として受託者に預け、受益者としての受益権で生活費などの支払いをすることで、法人を通して二人の財産を共同で管理していく。当初受益者が亡くなった場合の第二次受益者にお互いを指定しておけば、万が一のときにお互いにお互いの財産を引き継ぐことができるというわけだ。

 ただし、信託契約を結ぶ際にはケース・バイ・ケースではあるものの数十万円の初期費用がかかってくる。法人を設立した場合は、その後も維持費用などが必要だ。また、受託者に信託した財産は信託財産となり相続財産ではなくなる。相続のルールではなく、信託契約にのっとって管理・運用・承継されるからこそ同性パートナーに財産を引き継げるわけだが、法定相続人とは利害関係が生じてしまう。