それでも不利益がたくさん!
同性パートナーを持つ当事者が願うこと

 相続対策の方法はいくつもあるが、それでも同性パートナーとの相続問題は法律上の配偶者と比べて不利益が多い。NZ人外交官の同性パートナーとして、彼の任地のアジア某都市と東京を頻繁に行き来している池田さん(仮名)に、当事者の思い・願いを聞いた。

 池田さんとパートナーはニュージーランドで婚姻関係を結んでいる。ニュージーランドでは、2005年に法的な婚姻関係にないカップルを保障するためのシビル・ユニオン法が施行され、2013年に同性婚を認める法律が採択された。だが、池田さんがパートナーとニュージーランドで暮らすようになった1996年にはすでに同性どうしのカップルは事実婚の男女と同じ程度の扱いをされており、在留資格などもすんなり出してもらえたという。

 そうした事情から、池田さんたちは財産形成や人生設計の核をニュージーランドに置いている。ニュージーランドで遺言書も作成し、相続対策をしているそうだ。しかし、7~8年前に少し事情が変わったと池田さんは言う。

「ここにきてやっぱり老後は日本にも住みたいねって話になって、相続で問題が生じることをある程度承知の上で東京にマンションを買いました。名義はパートナーと2分の1ずつです」

 相続問題とパートナーの在留資格問題の両方が絡み合っているため、池田さんの抱える問題はかなり複雑だ。法律上の配偶者であれば在留資格が申請でき、なおかつ相続上でもさまざまな優遇措置がある。同性どうしというだけで不利になり、人生計画にも大きな影響を受けてしまうことに池田さんは不満を感じているという。

「そもそも日本が同性カップルを認める兆しがなかったため、二人の人生設計がNZ人パートナー側を中心にしたものになり、すでに引退直前。こういった不利さがなければ、もっと日本でも資金運用をしたり、財産を形成したりできるのにという思いがあります。私のパートナーは日本語もかなり堪能なので、在留資格があれば日本で職を得るということも考えに入れられるでしょう。それがまったくできないということは、私にとって大きな損失です。日本にとっても潜在的に損失だと思います」

 同性カップルに対して同性婚もしくは結婚に準じた権利を認めていないのは、G7では日本だけ。日本がもっとフレンドリーに変わってくれれば……そう池田さんは願っている。

法改正を待つだけではリスク大!
パートナーとの話し合いを

 同性パートナーとの間であっても相続対策をすることは可能だ。しかし、どの方法も家族や親族の理解がないと、何かとトラブルになりやすい。

 前出の池田さんは両親がすでに他界しており、妹と甥の2人しか親族がおらず、妹との関係も非常に良好なので、自分の死後に変なもめ方はしないだろうという安心感を持っているそうだ。そんな池田さんもかつては、日本企業でカミングアウトするのは無理だと息苦しさを抱えていた頃があったという。周囲に二人の関係を周知して理解を求めることは必要だが、それは日本社会ではまだまだ簡単ではない。

 とはいえ、パートナーや自分の死という「万が一のこと」は、明日にも起こり得る。同性婚やそれに準じた制度が認められるのが一番ではあるものの、法改正を待っているだけではリスクが大きい。パートナーとよく話し合い、自分たちの状況に合わせた相続対策を取ることが大切だ。