英年金基金が大規模な資産売却に追い込まれた

 9月下旬以降の金利急騰によって、英国では資産売却に追い込まれる年金基金が急速に増えた。英国では、「ライアビリティ・ドリブン・インベストメント」(LDI)と呼ばれる資金運用を行う年金基金が増えてきている。LDIは、「債務に連動した資金運用」などと訳される。

 具体的には、将来に発生するキャッシュフローを予測し、それを満たす利得の確保を目指す。そのために、「金利スワップ」(固定金利と変動金利などキャッシュフローを交換するデリバティブ取引)を利用することが多い。

 リーマンショック後は、世界的に低金利環境が長期化した。中長期的な金利収入を確保するために、資金を借り入れて(レバレッジをかけて)金利スワップなどデリバティブ取引を増やす英国の年金基金はさらに増加した。スワップ取引を行う投資家は、相手方の金融機関に国債などを担保として差し入れる。

 金融市場が落ち着いている場合、レバレッジをかけた資金運用に大きな問題が発生することは少ない。しかし、トラス政権の大規模減税発表によって、英国債は急落した。担保価値の急落によって追加の担保支払い要請(マージンコール)に直面する年金基金は急増した。資金捻出のために年金基金は保有する国債の売却に追い込まれた。

「金利急騰によって英年金基金全体で25兆円の損失が発生した」との報道もある。最終的に、それは年金受給者である国民の厚生を低下させる恐れがある。

 トラス政権の減税案は、英国のインフレ鎮静化も一段と難しくさせた。9月、英国の消費者物価指数は前年同月比10.1%上昇した。本来、イングランド銀行は、追加利上げや国債売却など金融引き締めを強化すべき局面にある。しかし市場混乱による年金基金への打撃を緩和するために、臨時の国債買い入れを行わざるを得なくなった。

 10月14日に買い入れ措置は終了した。その後、イングランド銀行は、年内は20年超の国債を売却しない方針を示した。