先行き懸念高まる世界経済と金融市場

 イングランド銀行の金融引き締めは遅れる。その負のインパクトは軽視できない。今後も世界各国でエネルギー資源や食料の価格は高止まりするだろう。となると後々、イングランド銀行が、想定を上回るペースで金融を引き締める可能性が高まったと考えられる。それは、世界の実体経済と金融市場にとって大きなマイナスだ。

 急速な英国の利上げ懸念が高まれば、世界全体でリスクオフの動きがさらに鮮明となるだろう。その場合、欧州ではクレディ・スイスの経営に対する不安心理が追加的に高まり、株価が大きく下落する展開は排除できない。

 消費者心理は悪化し、EU加盟国の消費、投資などは下振れるだろう。リスクオフの加速により中国からの資金流出も加速する恐れは増す。欧州、中国経済の本格的な景気後退リスクは追加的に高まるだろう。

 また、現在は相応の底堅さを維持する米国経済でも、先行き懸念は高まっている。米FRB関係者は、一段と追加の金融引き締めを強化する考えを強めている。今後、金利は一段と上昇するだろう。すると企業と家計の利払い負担は増える。

 また、リストラが増えて米国の労働市場は悪化し、個人消費は減少するだろう。それは、世界経済の下支えが弱まることを意味する。金利上昇によって米国の株価がさらに下落する恐れも増している。世界全体が本格的な景気後退に陥る恐れは一段と高まっている。

 そうした状況下、各国で、政府により手厚い支援を求める世論が急速に高まることは想像にたやすい。懸念は、政治家が近視眼的に考え、世論に迎合しがちであることだ。

 有権者の負担増を避け、財源が不明なまま国債増発を重視する国では、これまで以上に金利が上昇し、追加的に実体経済と金融市場の悪化懸念が高まるだろう。その場合、経済と金融市場の混乱に拍車がかかり、社会全体で閉塞感は高まってしまう。そうならないためにも各国は、英国史上最短に終わったトラス政権の教訓を生かすべきだ。