米国アラバマ州の土地に
計画された「夢の町」

自動車王フォードと発明王エジソンが100年前に掲げた「幻の都市計画」の先見性エレクトリック・シティ フォードとエジソンが夢見たユートピア』 トーマス・ヘイガー 著、伊藤 真 訳、白水社、税込2860円

 自動車王として知られるヘンリー・フォード(1863~1947年)は、自動車メーカー「フォード・モーター」の創業者だ。同社が1908年に発売した「T型フォード」が大ヒットし、巨額の富を築いた。工場におけるライン方式の大量生産システムを発明したことでも知られる。

 彼が「夢の町」構想を描いたのは、米国南部・アラバマ州のテネシー川流域にある「マッスル・ショールズ」と呼ばれた土地だ。

 1920年代にフォードが目を付けるまで、この地はさまざまな遍歴をたどってきた。当初は南北戦争(1861~1865年)で敗北した南部を復興するために、この地には水力発電ダムが建設される予定だった。

 ところが、1914年に第一次世界大戦が勃発したことで、この建設計画は中断。政府によって方向転換を余儀なくされ、軍需のための硝酸塩製造工場が建設された。

 第一次世界大戦終戦後、この工場は不要になり、政府が工場の売却先を公募。それにフォードが入札し、画期的な「夢の町」構想を発表したという流れだ。

 フォードはマッスル・ショールズの地に、ニューヨーク市マンハッタン区の10倍規模の都市を建設する構想を描いていた。そこでは産業のエネルギー源として、水力発電を使う計画だった。

 そのためフォードは、「夢の町」への水力発電の導入に向け、友人だったトーマス・エジソンに協力を仰いだ。いわば、当時世界一といわれた大富豪と、発明王という強力なコンビが誕生したわけだ。

 なお、イギリスの企業家ウィリアム・アームストロングが、世界で初めて水力発電を行ったのは1878年。この技術を踏まえて、エジソンが世界初の水力発電所を米ニューヨークに建設したのは1881年である。

「夢の町」構想が盛り上がっていた1920年代、水力発電はまさに重要な電力供給源として発展していたのだ。

 心強い仲間を得たフォードは、他にも数々の構想を打ち立てていった。

 具体的には、この地域に多数の小規模な工場を建て、100万人の労働者に職を提供しようとした。

 他にも、全ての労働者に一定の面積の土地を与え、農作業によって自給自足の生活を送れる体制を作ろうとした。