「独自通貨」も夢見たが
反対派によって幻に

 フォードは労働者たちに近代的な農機具を提供し、生活に必要な農作業を2~3カ月で終えられるよう支援する計画だった。

 1年のうち農作業をしていない期間は、自動車工場で働いてもらい、その賃金を生活費や教育費に回せるようにする構想もあった。

 一連のアイデアからも分かるように、この町では都会生活と田舎暮らしの良い部分を合体させ、充実した生活を送れるようにする――というのがフォードの夢だった。

 また、この都市構想のポイントは「分散」にあった。地域の中に、小規模工場を持つ小さな町や村が多数点在し、それらを幹線道路と送電線でつなげるというものだ。

 住民は自然豊かな農村地帯に分散して暮らし、必要な時には自動車で通勤する。分散した個々のコミュニティーを維持しながら、産業振興も同時に行える。こうした仕組みをフォードは目指していた。

 さらに、この巨大な建設計画の資金調達のために、フォードは「エネルギー・ドル」と名付けた独自の通貨を発行しようとしていた。

 その通貨は、当時の主流だった金本位制ではなく、マッスル・ショールズに作られる水力発電ダムと、それが生み出すエネルギーの価値を裏付けとするものだった。

 だが、多くの読者がお察しの通り、この計画はそう単純には進まなかった。結果的にフォードが入札を取り下げ、立ち消えになったのだ。

 連邦議会に計画の不備が指摘されたり、フォード社への利益誘導ではないかという反対意見が出されたりして審議が長引き、フォードと大統領との裏取引が暴露されたことが響いた。

 結局、マッスル・ショールズは、フォードの計画への反対派の急先鋒だったジョージ・ノリス上院議員の発案でTVA(テネシー川流域開発公社)が設立され、開発が引き継がれることになった。

 その成果は一定の評価は得ているものの、フォードの理想とはほど遠いものだったことは否めない。