失敗に終わった「夢の町」計画が
現代に通じるポイントとは?

 失敗に終わったものの、これまで紹介してきたフォードの構想に、現代にも通じる要素が散見されるのにお気づきだろうか。

 世界的な自動車メーカーが独自の都市計画を掲げた点は、トヨタ自動車が最新テクノロジーを用いた実験都市「ウーブン・シティ」を立ち上げたことに通じている。

 火力発電も同時に発展を遂げていた20世紀初頭において、町全体でクリーンな水力発電のみを使用するという考えは、二酸化炭素の排出量を減らす「脱炭素シフト」に近いものがある。

 都市構想のコンセプトといえる「分散」は、新しいインターネットのあり方「Web3」や、新しい組織のあり方「DAO(分散型自立組織)」を想起させる。

 ここでは詳しい説明は避けるが、Web3は特定の管理者を置かず、ブロックチェーンなどの技術を使って、一般ユーザー同士が金銭やデータをやり取りできる形式を指す。DAOは中央集権的な管理者がいないまま、分散したメンバーが対等かつ自律的に管理する組織を指す。

 また、既存の通貨とは一線を画す「エネルギー・ドル」は、今の仮想通貨や地域通貨に重なる部分がある。

 ヴェルヌが『海底二万里』で描いた電力駆動式潜水艦と同様、これらのポイントは現代を予見していたかのようだ。

 そして、現代のさらに進歩した技術や、さまざまなアイデアを加えれば、フォードが夢見た都市計画を実現できるかもしれない。