フォードの夢は
メタバースで実現可能か

 この計画の実現可能性が最も高い技術は、メタバースだろう。メタバース上の仮想都市であれば、巨額な建設費用はいらない。フォードの構想をメタバースでなぞり、独自の通貨が流通する「自律分散型」の仮想世界を作る試みがあってもいいのではないだろうか。

 ちなみに、フォードの構想以前にも、かつての都市研究家たちの間では、都市と農村を融合した「田園都市」理論などの研究が行われていた。独創的な「夢の町」構想だが、厳密には完全に新しい案とはいえないのだ。

 それでも、フォードやエジソンが構想を実現させるべく、自身が持つ技術力とアイデアをフル活用したのは間違いない。

 彼らによる「過去のアイデアや構想から、その理念や骨組みを抽出し、最新技術を応用して実現を目指す」手法は、われわれの仕事における発想にも役立つだろう。

 よく言われることだが、あのiPhoneも、既存技術の組み合わせにすぎず、それにApp Storeのエコシステムなどのアイデアが加わることで成功した。

 イノベーションが全くのゼロから生まれることはまれだ。たいていは既存のモノやアイデアを組み合わせたり、新しい技術や仕組みを加えたりすることで、新しくて便利なものが創造される。

 そうした気づきも得られる『エレクトリック・シティ』は、幻に終わったフォードの夢の道筋を追った、胸躍るノンフィクションとして楽しめる一冊だ。ぜひ、あなたの「夢の実現」について考えながら、ページをめくってみてほしい。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
自動車王フォードと発明王エジソンが100年前に掲げた「幻の都市計画」の先見性
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