国内の各方面から円安に対する懸念

 主要投資家の多くは、当面、日米の金融政策の方向性の違いは変わらないとみているだろう。ただ、ここへ来て、国内の各方面から円安に対する懸念の声が上がっている。背景には、円安による輸入物価の上昇がある。

 世界的にエネルギー資源や食料など物価が広範に上昇した。天然ガスや小麦などの価格は20年年初よりも高い。コロナ禍の発生やウクライナ危機などで、世界全体で供給能力は低下している。西側諸国とロシアの対立も一段と鮮明だ。

 半導体などの先端分野では、米中の対立も先鋭化している。それらは世界経済がグローバル化から脱グローバル化に転じたことを意味する。企業は、需要の変化に柔軟に対応して、供給体制を整備することが難しくなった。各国企業の事業運営コストは確実に増えている。世界経済の構造が変化している。

 そうした状況下、米国では依然として労働市場の需給がタイトだ。賃金も上昇している。企業は増加した分のコストを価格に転嫁しやすい。米国では生産者物価指数、消費者物価指数ともに高止まりしている。

 6月以降、米国のインフレには鈍化の兆しが出てはいるものの、物価が低下し始めたと論じるのは尚早だ。消費者が予想する1年先のインフレ率は高止まりしている。インフレを鎮静化するため、FRBは追加の利上げなど金融引き締めを強化する必要に迫られている。

 一方、日銀は異次元緩和を継続する姿勢を崩していない。10月18日、衆議院の予算委員会で黒田総裁は、辞任する考えがないことを明確に述べた。また、同月21日、全国信用組合大会における挨拶で黒田総裁は、「賃金の上昇を伴うかたちで、『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現できるよう、金融緩和を実施していく考え』であると述べた。

 現時点で、黒田総裁の任期中、日銀が異次元金融緩和の枠組みを大きく修正するとは考えづらい。財務省と日銀による追加の円買い介入の可能性は、投機筋などによる円売りを一時的に抑制しはする。しかし、単独介入によってグローバルな投資家の行動をすべてコントロールすることは難しい。