今はそれほど目立っていなくとも、「10年後、圧倒的に伸びる企業」や「10年後に圧倒的に優秀になる人」には、どんな共通点があるのだろうか。
そこで参考になるのが、『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』。「お金に困らない人生を送るにはどうしたらいいか?」という問いについて、さまざまな企業のケーススタディを通して考える、全ビジネスパーソン必携の書だ。著者は、長期厳選投資が専門のファンドマネージャーである奥野一成氏。主にプロの投資家から約4000億円の資産を預かり、運用実績を上げ続ける奥野氏は、日本におけるバフェット流投資のパイオニアだ。
YouTubeやSNSには安易な情報発信をする「自称投資家」も多く、投資初心者の混乱を招いてしまうこともある。そこで今回は、『投資家の思考法』の発売を記念し、「投資の本質」について深く掘り下げるインタビューを実施することにした。資産形成の疑問・投資の疑問について、奥野氏にとことん答えていただこう。(取材/川代紗生 撮影/小島真也)
年平均リターン18.7%。「バフェット流投資」の投資哲学とは
──奥野さんは、「売らなくていい会社しか買わない」という投資哲学をお持ちですよね。株式投資って、どうしても「売る」ことを前提に考えてしまいがちじゃないですか。奥野さんの考えが変わったきっかけのようなものはあったんですか? それとも、もともと長期投資を主流にされていた?
奥野一成(以下、奥野):大きかったのは、ロンドン留学をしていたとき、「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェットの考え方に触れたことですね。30代前半くらいでしょうか。当時、私は証券会社で債券ディーラーとして働いていました。でも、相場という先の見えない世界でコンスタントに収益をあげ続けるのって、やっぱり大変なんです。それなりに稼げるディーラーにはなっていたのですが、500万負けた翌日は1000万勝ち、やれやれと思っていたら、またその翌日に2000万やられて……みたいな、その繰り返しで。
──ヒヤヒヤして、落ち着いて眠れなさそうですね。
奥野:もう、だんだん気分がブルーになっていくんですよね(笑)。そんなとき、バフェットの投資哲学に出会い、それはもう、衝撃を受けました。バフェットは2022年現在92歳、現役の投資家ですが、彼の経営する投資会社の年平均リターンは、54年間でなんと18.7%です。同じ期間のS&P500の年平均リターンは9.7%だったので、市場平均を大幅に上回るリターンをあげてきた。
──18.7%! すごい数字ですね。「売らなくていい会社しか買わない」という哲学も、バフェットが提唱したものなんですか?
奥野:バフェットの投資手法にはさまざまありますが、私がとくに衝撃を受けたのは、彼のこんな言葉でした。
「私は投資した翌日から5年間は市場が閉鎖されると想定して投資判断をする」。つまり、投資してから少なくとも5年は保有し続けることを想定して購入するんです。バフェットは株価の値動きで投資先企業を選ぶのではなく、「永続的に利益を生み出す事業モデルを持っているかどうか」という点を見て、投資判断をしている。株式に投資するとはそういうことなのかと、目から鱗が落ちる気持ちでした。
2、3年かけて企業リサーチをする理由
──奥野さんは、バフェット流の投資を日本でもできないかと考え、農林中金で社内プロジェクトをスタートさせて、後に社内ベンチャーである「農林中金バリューインベストメンツ」(通称:NVIC)の立ち上げに繋がったんですよね。
奥野:ええ。バフェットのように、「売り買いせずにリターンをあげること」は、日本でも可能なのだろうか? という壮大な社会実験のはじまりでした。結果として、100億円だった運用資産は現在4000億円にまで増え、「買ったら売らない」という運用は間違いではなかったのだと、確信を強くすることができた。
とはいえ、「売らなくてもいい会社」を見極めるのは、簡単なことではありません。売上や利益率、それ以外の財務諸表に書かれた数字を読み込むのはもちろん、仮説を立て、その仮説を企業訪問でぶつけ……と、企業リサーチにかなりの時間をかけます。
──仮説の具体的な立て方については、『投資家の思考法』にもケーススタディとして解説されていましたよね。ここまで細かく見るのはかなり大変じゃないかと思ったのですが、投資を決断するまで、通常、どれくらいの時間がかかるんですか。
奥野:2、3年はかかりますね。
──2、3年も! それは大変だ。
奥野:でも、私たちの仮説が正しいかどうかを検証するには、それくらいはどうしても必要なんですよ。3年あれば、そのあいだに3回決算が発表されますから、仮説に照らし合わせてチェックできるので。