ビジネスパーソンとしての分岐点、35歳。収入にも差が出はじめ、若い頃の自己研鑽の結果が、成績表のようにあらわれてきてしまうこの時期。後悔しないためには、どう過ごせばいいのだろうか。そこで参考になるのが、『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』。「お金に困らない人生を送るにはどうしたらいいか?」という問いについて、さまざまな企業のケーススタディを通して考える、全ビジネスパーソン必携の書だ。著者は、長期厳選投資が専門のファンドマネージャーである奥野一成氏。主にプロの投資家から約4000億円の資産を預かり、運用実績を上げ続ける奥野氏は、日本におけるバフェット流投資のパイオニアだ。
YouTubeやSNSには安易な情報発信をする「自称投資家」も多く、投資初心者の混乱を招いてしまうこともある。そこで今回は、『投資家の思考法』の発売を記念し、「投資の本質」について深く掘り下げるインタビューを実施することにした。資産形成の疑問・自己投資の疑問について、奥野氏にとことん答えていただこう。(取材/川代紗生 撮影/小島真也)

35歳で「急に成長が止まる人」と「収入が上がる人」の決定的な差

20代の「自己投資」は給料として跳ね返ってくる

──『投資家の思考法』で提唱されていた「ジブン・ポートフォリオ」理論がとても印象的でした。22歳、35歳、50歳。年齢によっても、どう資産形成するかが変わる、という。

奥野一成(以下、奥野):そうですね。「資産形成」「ポートフォリオ」という言葉を耳にすると、「株式は何%入れるべきなのか」「円以外の、外貨建て資産も組み入れるべきなのだろうか」など、金融資産のポートフォリオをイメージする人が多いかもしれませんが、とりわけ20~30代の多くの若い方にとって、人生最大の資産は紛れもなく「自分」です。

 若ければ若いほど、これからお金を稼いでいく「時間」がある。自己投資の方法次第で、可能性をいくらでも広げることができるわけです。

35歳で「急に成長が止まる人」と「収入が上がる人」の決定的な差

 だから、ビジネスパーソンとして終盤戦に入った50歳ならともかく、まだ経験もスキルもない22歳のうちは、コツコツ貯めた200万円をどう運用するか頭を悩ますより、自己投資して「自分」という資産の価値を上げる方がいい。数十年後、ずっと大きなインパクトになります。若い頃は借金してでも自己投資するべきだと私は思いますね。

 短期的には損しているように見えても、自己投資さえ怠らなければ、30、40代とビジネスパーソンとしてキャリアを積む中で、自ずと金融資産は積み上がっていくはず。それまでの「自己投資」が着実に血肉となり、給料として跳ね返ってきますからね。

「35歳から真価を発揮する人」が若い頃にしている経験とは

──『投資家の思考法』には、「35歳のジブン・ポートフォリオ」という項目も書かれていました。

奥野:そうですね。35歳はビジネスパーソンとして十数年を過ごし、主戦力として活躍している時期。収入も上がり、「金融資産」も少しずつ積み上がっているかもしれません。いっぽうで、若いころの経験や自己研鑽の蓄積によって、昇進スピードや収入に差がつき始めるころでもありますね。

──「35歳転職限界説」などもあり、キャリアについていちばん悩む時期かもしれません。「35歳で急に成長が止まってしまう人」と、「35歳から真価を発揮し、さらに大きく成長する人」との違いは、どんなところにあると思いますか。

奥野:やっぱり、本当の意味で自立できているかどうか、だと思います。

──自立できているかどうか。

奥野:はい。「他人は当てにならない」ということを、実体験として理解できているか。

 たとえばわかりやすいところでいうと、部下の育成ですよね。指示した通りになってない。思うように動いてくれない。そういう、「自分の力じゃどうがんばってもコントロールできない」というある種の理不尽さと、対峙した経験があるかどうか。

 他人や社会を当てにし、何か問題が起きたとき、人生がうまくいかなくなったときに、「上司」「部下」「親」など周りの人のせいにしたり、はたまた「日本がうまくいっていないからだ」と国や社会のせいにしたりするのではなく、「自分」を主語にし、自分の頭で考えられること。これは、どこにいっても求められる人の必須条件だと思います。

──なるほど。では、やはりマネジメント経験などは必要?

奥野:別に、部下の育成など、仕事じゃなくてもいいと思います。身近なところでいえば、子育ても、「他人はコントロールできないんだ」と教えてくれるきっかけになりますよね。

 いずれにせよ、「どれだけ客体視できるか」が大事で。他人と自分をだんだん切り離していく作業が、自立の過程において必要だと思うんです。「この人は俺とは別人格だから、関係ないものは関係ない。でも、この人には幸せになってもらいたい。それにはどうしたらいいだろう?」って、そんなふうに考える。それこそが自立した人間同士の関係性じゃないかなと。

──「他人は当てにならない」という痛烈な体験は、ある程度若いうちに味わっておいた方がいいと思いますか。

奥野:はい。もっとも簡単なのは、失恋ですよね(笑)。全然、自分の思ってるとおりにならないでしょ。

──ああ(笑)。

奥野:昔から、「色恋が人生の肥やしになります」なんて言われるのは、そういう意味だと私は思っています。