常に成長し続ける、「トップ1%企業」には、共通点がある──。そう語るのは、長期厳選投資が専門のファンドマネージャーである奥野一成氏だ。主にプロの投資家から約4000億円の資産を預かり、運用実績を上げ続ける奥野氏は、日本におけるバフェット流投資のパイオニア。奥野氏の思考法を余すところなく解説した新刊『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』も、発売当初から話題を呼んでいる。「お金に困らない人生を送るにはどうしたらいいか?」という問いについて、さまざまな企業のケーススタディを通して考える、全ビジネスパーソン必携の書だ。
YouTubeやSNSには安易な情報発信をする「自称投資家」も多く、投資初心者の混乱を招いてしまうこともある。そこで今回は、『投資家の思考法』の発売を記念し、「投資の本質」について深く掘り下げるインタビューを実施することにした。投資の疑問・お金の疑問について、奥野氏にとことん答えていただこう。(取材/川代紗生 撮影/小島真也)

「トップ1%企業」の社員が口を揃えて言うこととは?

ファンドマネージャーが企業訪問で必ず聞くこと

──奥野さんは、ファンドマネージャーとして、企業訪問などもされていますよね。投資するに値するか分析する過程で、絶対にする質問はありますか。

奥野一成(以下、奥野):基本的には、相手が誰であっても同じで、「御社のビジネスには参入障壁があるのですか?」です。これに尽きますね。参入障壁という言葉が理解してもらえないときには、「競争力を決める要因は何ですか?」と聞くようにしています。それがビジネスモデルにあるのか、技術力なのか、マーケティング力なのか、それを結合させた何かなのか。

 要するに、その会社の「競争優位性」を確かめたいんですよね。そこで、他企業とのシェア推移や、マーケットの大きさにおけるGDPとの比較など、自分で組み立てた仮説を持っていって、相手にぶつけてみる。それで参入障壁が高くなっているのか低くなっているのか、あの手この手で確認するんです。

トップ1%企業」に共通する空気感

──たくさんの企業を見てこらえた奥野さんの目から見て、「トップ1%にずっとい続ける企業」には、どんな共通点があると思いますか? 実際に企業訪問してみたときの、空気感の特徴などがあれば教えてください。

奥野:その企業のことが好きな社員が多い、というのは、どの企業にも共通しているところかもしれません。その企業で働くことが居心地よく、仕事に対してプライドを持っている。従業員・経営者問わず、そういう人がたくさんいる会社って、強いですよね。

──何か、驚いたエピソードなどはありますか。

奥野:たとえば、主に半導体の開発を行っているテキサス・インスツルメンツという会社は、すごく面白くて。私たちがアメリカ本社に訪問に行くと、いつも対応してくれるIR(投資家向け広報)のおじちゃんがいるんです。結構偉い立場の人なんですが、以前、彼のお父さんと息子さんと、なぜか親子3代でミーティングすることになって(笑)。

──投資するに値するかリサーチするための企業訪問で、ですか?

奥野:そう、そのはずなんですけど(笑)。そのとき、12月のクリスマスシーズンだったんです。アメリカではクリスマスに長期休暇を取るのが一般的ですから、そのIRのおじちゃんも、休暇に入る直前で。

 それで、私が「工場見学したい」と言ったら、「うちの親父と息子が遊びに来てるから、一緒に回ってもいい?」って。自分の家族に、自分の愛する会社で働く姿を見せたかったみたいで。

──それはびっくりしますね。

奥野:しかも、それだけじゃなくて、彼の娘さんも、テキサス・インスツルメンツで経理として働いてるんですよ。

──娘さんも。それはすごい。本当に好きなんですね、会社のことが。

奥野:そうそう。自分の会社の自分の仕事を、父親にも見てもらいたいし、息子にも見てもらいたい。娘も働かせたいくらい、いい会社だと思っている。彼は、テキサスが大好きなんですよね。ああいうのを見るにつけて、やっぱり「ああ、いい会社だな」って思いますよね。