「真面目にコツコツ働くだけ」の人生は、現代においてはギャンブルだ──。そう語るのは、長期厳選投資が専門のファンドマネージャーである奥野一成氏だ。主にプロの投資家から約4000億円の資産を預かり、運用実績を上げ続ける奥野氏は、日本におけるバフェット流投資のパイオニア。奥野氏の思考法を余すところなく解説した新刊『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』も、発売当初から話題を呼んでいる。「お金に困らない人生を送るにはどうしたらいいか?」という問いについて、さまざまな企業のケーススタディを通して考える、全ビジネスパーソン必携の書だ。
YouTubeやSNSには安易な情報発信をする「自称投資家」も多く、投資初心者の混乱を招いてしまうこともある。そこで今回は、『投資家の思考法』の発売を記念し、「投資の本質」について深く掘り下げるインタビューを実施することにした。投資の疑問・お金の疑問について、奥野氏にとことん答えていただこう。(取材/川代紗生 撮影/小島真也)

なぜ、「真面目にコツコツ働く人」ほど損をしてしまうのか?

人生100年時代に「真面目に働くだけ」の選択をするのは自殺行為

──『投資家の思考法』の前書きに「『真面目に働くだけ』の人生はむしろギャンブルかもしれない」と書かれていましたよね。すごく驚いたのですが、その一方で、現代日本の本質をついた言葉だなと思いまして。奥野さんは、いつ頃からそう考えるようになったんですか。

奥野一成(以下、奥野):もともと、どんなビジネスパーソンにも、「投資家の思考法」──本書では「インベスターシンキング」と呼んでいますが──が必要だとは、ずっと考えていました。2年半前に『教養としての投資』を出版したあと、その思いがさらに強くなったような気はしますね。

 コロナ禍は想像以上に長引いているし、ロシアによるウクライナ侵攻もはじまり、世界情勢は一変しました。30年以上デフレでも持ちこたえてきた日本経済もいよいよ窮地に追い込まれ、確実に貧しくなってきている。この20年間、日本人の平均年収は400万円台前半のままで、上がるどころか下がっています。

 急速な少子高齢化で、これまで当たり前だった、「現役時代に真面目にコツコツ働き、貯めたお金で余生を送る」というライフスタイルは崩壊しつつある。「投資はギャンブルだ」という人がいますが、いまはむしろ、終身雇用を前提に、将来のことを考えず日々の労働だけして生きるほうが、よっぽどギャンブルだと思います。

──勤めていた会社が潰れたら終わりですもんね。

奥野:大企業でさえ存続が危ぶまれる時代に、雇用主に言われたことをそのままやり続けるだけの働き方は、人生100年時代を生き抜く上で、自殺行為に近いと言っても過言ではありません。

──会社や国に依存することなく、どこにいても生き残っていけるよう、本当の意味で「自立」するにはどうしたらいいかが、『投資家の思考法』を貫く問いでした。

奥野:そうですね。私にとっての「投資」の定義は、お金だけではありません。<「時間」「お金」「才能」の3つの資産を投下することで、より大きな資産を得ること>が、本質的な「投資」であると考えています。

 私が提案したいのは「働かなくて済む方法」「ラクしてお金を儲ける方法」ではなく、「勤め先に依存することなく、他者とのつながりの中でできた信用を、いつでもお金に換えることができる人」になるには、どうしたらいいか。その解決策なんです。