インフレ抑制のため積極的な利上げを行ったことで、米連邦準備制度理事会(FRB)はこれまで経験したことのない事態に直面している。それは損失を出すことだ。
FRBの営業損失がここ数週間で拡大している。FRBに預けられる銀行やマネー・マーケット・ファンド(MMF)の資金に対して支払われる利息が、過去14年間に景気刺激策として実施された債券購入プログラムを通じてFRBが蓄積した約8兆3000億ドル(約1230兆円)の米国債や住宅ローン担保証券(MBS)から得られる金利収入を上回っているためだ。
こうした損失はFRBの金融政策運営能力に悪影響を及ぼすものではないし、FRBはこれまで何年にもわたり、毎年1000億ドル規模の利益を得て、財務省に納付していた。こうした国庫納付金により連邦政府の赤字は削減されてきたが、FRBからの納付金がなくなれば、政府の借り入れニーズが若干高まる可能性がある。
FRBが損失を出し続けた場合でも、議会に支援を求める必要はなく、バランスシート上に「繰り延べ資産」と呼ばれる借用項目を作成すれば済む。FRBが将来再び利益を計上すれば、この借金を返済した上で国庫納付を行うことになる。
モルガン・スタンレーのチーフグローバルエコノミスト、セス・カーペンター氏によると、この取り決めは、税率が100%の環境で、現在の損失を将来の収入で穴埋めするようなものだという。
この損失は、分かりにくい資金の流れに起因している。FRBが抱える8兆7000億ドルの資産ポートフォリオは、主に利付き資産である国債と抵当証券で構成されており、その平均利回りは2.3%。一方、バランスシートの負債側には、FRBに預け入れられている銀行預金(準備預金)と、リバースレポ契約と呼ばれるオーバーナイト・ローンの借り入れがある。