まず、制度の恒久化は、これまで期限を区切って与えてきた税制上の優遇措置を永続化するものであり、そもそもが「大きな譲歩」だ。

 さらに、税制上優遇する投資期間の無期限化も、かつてなら課税できたはずの投資利益に対して課税できなくなる可能性があるのだから、野放図に大きくしたくはない。加えて、投資対象をいったん売却したら、非課税措置の適用枠を復活させたくないだろう。利益が課税の対象外になる資産のサイズはできるだけ大きくしたくない。

 また、「無期限」に優遇が適用されている口座の本人確認の事務などは(本来国税の仕事だろうが)金融機関に押しつけたいかもしれない。

 もちろん、税制優遇の対象とする投資額を大きく増やしたくないだろうし、拡大するとしても、時間を刻んで少しずつやりたいだろう。

 そして大本の問題として、徴税当局とすれば課税を免除する制度の拡充を急ぐ必要はさらさらない。

「税金を取る側」にも彼らなりの理屈があるのだ。

 そう考えると、投資家は不安にならないか。新しいNISAは一体どの程度新しくなるのか。そして、そもそも実現するのか。

「成長投資枠」が
問題を複雑化する

 新しいNISAとして検討されている制度の概要が発表されたときに、金融業界側で大いに興味をそそられたのは、総枠の中の内数として設定されるという「成長投資枠」(仮称)の大きさと中身だった。

 金融業界としては、つみたてNISAで金融庁が運用対象として認める、主として低廉な手数料の投資商品(主にインデックス連動型の投資信託だ)ばかりが新しいNISAの対象になるのだとすると、手数料を稼ぎにくい。最悪の場合は、既存の高手数料ビジネスの一部を新しいNISAに蚕食(さんしょく)されるかもしれない。この「枠」に対する金額の拡大と、対象となる運用商品の範囲拡大に関して活発なロビー活動があったことが想像できる。

 一説には、仕組み債の販売が難しくなって手数料稼ぎの対象を探している金融機関が、新しいNISAの成長投資枠でのビジネスに期待を寄せているといった話もある。仕組み債のような悪徳商品を売る金融機関は、運用商品の販売自体を廃業してしまうのが世の中のためだと筆者は強く思うのだが、実際にはそうもいかないのだろう。

 しかし、金融業界側としては、この問題に注力し過ぎたおかげで無駄な時間を費やしてしまったのかもしれない。