一方、金融庁としては、もともと14年に導入されたオリジナルのNISAにあって、金融機関の営業があまりにも汚かったことへの「怒りと反省」(注:金融庁の正式発表ではなく筆者の推測だが、外れてはいまい)から、18年につみたてNISAを作ることになった経緯への記憶があるはずだ。

 また金融庁は、既存のNISAで個別株式への投資が一定額積み上がってしまったので、この受け皿を作らないと、制度の移行に伴って株式の売却が生じるかもしれないことを意識しているようだ。

 一方、現実問題としては、成長投資枠に「NISAの対象として」許容できる運用商品の制限には大いに議論の余地がある。さらに、新しい対象が加わるごとに制度は複雑化するし、同時にシステム開発の工程も増えることになる。

 例えば、投資されているある運用商品が、一般枠での投資なのか成長投資枠での投資なのかを分類管理しなければならない。また、これが売却された場合にそれぞれの「枠」がどれだけ消費されたのかをどう把握するのか(たぶん簿価ベースで管理するのだろうが)、残った「枠」をどう扱い管理するのかにも対処しなければならない。もちろん、対象を増やすごとに、商品の登録や各種のデータ取得が必要になることは言うまでもない。

 そもそも「成長投資枠」は本当に必要なのだろうか?

投資家目線で考える
現実的な順番は?

 今度は、新しいNISAに何を求めるのかを一般個人の側に立って考えてみよう。以下のような利害と評価が妥当だろう。

(1)NISA制度の恒久化は必要であり歓迎だ。むしろ、今までなぜ恒久的な制度でなかったのかが不思議だ。

(2)非課税投資期間の延長、まして無期限化も同様に歓迎だ。もともと、資産形成のための投資は長期で行うものだ。

(3)利益に非課税で運用できる資産の金額(「枠」)は、当たり前だが大きい方がうれしい。

(4)途中で資産を売却したときにその資産の「枠」が復活しないのは大変困る。直ちに、あるいはせめて何らかのルールに従った積立投資で、「枠」を再利用できるようにしてほしい。そうでないと、事情があって一部(ないし全部)を換金して長期保有ができなかった投資家と、長期保有できた投資家との間で非課税となる優遇の額にも最終的な資産の額にも、制度的な制約のせいで大きな差がつくことになるだろう。

(5)前述の(4)が可能な場合、資産を売却した際に消費した「枠」の把握は、おおむね投資時点の買い付け価格に準ずる「簿価ベース」くらいがフェアだろう。

(6)「成長投資枠」は新しいNISAに必ずしも必要ではない。理屈上は投資できる対象の範囲が広い方がより好ましい。だが、現実には別途の投資枠があることで金融機関からの余計なセールスを受けやすくなり、結果的に運用パフォーマンスが損なわれることが予想されるからだ。

(7)数年ごとに口座の本人確認をするような面倒な手続きは、投資家にとって不便だ。それに、金融機関に手続きを強要すると結局投資家が払うコストに跳ね返るので、ない方がいい。制度や手続きはできるだけシンプルな方がいい。