研究から見えてくる3つの打ち手

 これまでに実施されたワークエンゲイジメントを高めることを目的とした40ほどの研究を見てみると、生産性を維持したままでワークエンゲイジメントを高める方法が見えてきます(2)。検討された介入アプローチには、仕事量や心身の負担を減らすといったJDに対するものや、報酬を上げたりコミュニケーションのツールを導入したり、コミュニケーションスキルを上げるためのトレーニングといったJRに対するものもありました。

 しかし、実際に最もワークエンゲイジメントを高める効果があったのはJCに対するアプローチでした。つまり、仕事量を減らすことや、上司との信頼関係も重要かもしれませんが、個人の仕事に対する捉え方を変えることが、ワークエンゲイジメントを向上するうえで最も効果的なのです。

 個人の仕事に対する取り組み方や考え方を変える方法として、提案できることは3つあります。

 1つ目は、マインドフルになることです。人は、目の前の出来事に瞬時に自分なりの解釈をつけ加えてしまいます。たとえば、いつも丁寧な口調の上司がその日はぶっきらぼうだと、とっさに「あれ何か怒られることしたかな」「なんであの人はあんなに気分屋なんだろうか」と考えてしまいします。マインドフルな状態とは、目の前の出来事にこのような解釈を加えずにそのままに受け取ることができる状態を指します。つまり、マインドフルな状態であることは、「仕事をさせられている」だとか「させていただいている」といった解釈なく「仕事をする」というフラットな状態で状況を把握することができるようになることなのです。仕事においてマインドフルになることは、JCを通してワークエンゲイジメントとウェルビーイングの両方を向上すると考えられています(3)

 2つ目は、グロースマインドセットになることです。グロースマインドセットとは、「人は努力で変われると思っていること」を指します。グロースマインドセットの反対は、「人は生まれながらの才能でできることや到達点が決まっていて、それはどうしようもないことで努力では変われない」と考えることで、フィックストマインドセットと呼ばれます。フィックストマインドセットからグロースマインドセットに変えること、グロースマインドセットを維持することがウェルビーイングの向上と絶え間ない努力につながり、これらがワークエンゲイジメントの向上につながることがわかっています(4)

 3つ目は、よく話し合ったうえで自己決定権・裁量権を多く持たせることです。自己裁量権だけではJRの要素が強くなりますが、個人の仕事の捉え方という面に着目するとJCの要素が前面にでます。人は、自分の意思で決めて自律的に行動していると思いたいものです。これはまさに仕事をさせられているという感覚ではなく、仕事をしているという感覚になりたいということと同じです。この欲求は、特に自分の内部から湧いてくる内的モチベーションに関連すると考えられています。内的モチベーションとは、達成したい、実現したい、知りたいなどの内部から生まれる意欲のことを指します。内的モチベーションの反対は外的モチベーションといって、罰や報酬を与えて外からモチベーションを操作することをいいます。外的モチベーションが過ぎると内的モチベーションが下がってしまうことが知られています。よって、罰や報酬ではなくて自分で目標を決めて自分で行動してもらう範囲を増やすことでワークエンゲイジメントは向上します(5)

 まとめると、従業員の方に、健康で長く気持ちよく働いてもらうためにはワーカホリックではなくワークエンゲイジメントになってもらわなければなりません。働きやすさを考えて、仕事の量を減らしたり、頻繁に飲みに行ってコミュニケーションをとったりしていた方もいらっしゃるかと思います。もちろん行きすぎた業務量やフルリモートで会ったことがないといった状況は確かにワークエンゲイジメントを下げます。

 一方で、通常の業務量・働き方の範囲内であれば、部下のワークエンゲイジメントを向上するために上司がすることはもっとシンプルでいいのです。社内の心理士や産業医に依頼し、マインドフルネスのトレーニングをしてもらい、グロースマインドセットを導入してもらう。あとは、部下を信じて裁量権を広げるだけなのです。そうすることで、従業員は生産性を維持したままで気持ちよく、長い間健康に働いてくれるはずです。

(2)Knight, Caroline, Malcolm Patterson, and Jeremy Dawson. 2019. “Work engagement interventions can be effective: a systematic review.” European Journal of Work and Organizational Psychology. https://doi.org/10.1080/1359432x.2019.1588887.
(3)Malinowski, Peter, and Hui Jia Lim. 2015. “Mindfulness at work: positive affect, hope, and optimism mediate the relationship between dispositional mindfulness, work engagement, and well-being.” Mindfulness. https://doi.org/10.1007/s12671-015-0388-5.
(4)Zeng, Guang, Xinjie Chen, Hoi Yan Cheung, and Kaiping Peng. 2019. “Teachers’ growth mindset and work engagement in the Chinese educational context: well-being and perseverance of effort as mediators.” Frontiers in Psychology 10 (April): 839.
(5)Vera, María, Isabel M. Martínez, Laura Lorente, and Ma José Chambel. 2016. “The role of co-worker and supervisor support in the relationship between job autonomy and work engagement among Portuguese nurses: a multilevel study.” Social Indicators Research. https://doi.org/10.1007/s11205-015-0931-8.