95%が頑張らされているだけ。低すぎる日本のワークエンゲイジメントを改善する3つの打ち手とは?

生産性が高い部下・従業員を思い浮かべてみてください。そんな人がいれば、会社としてはできるだけ長く一緒に働いてもらいたいと思うことでしょう。そして、これだけ活躍しているのだから、その従業員の方はさぞや楽しく仕事に取り組み、「自分はできる」という自己肯定感をもっている、そう思っていませんか?
しかし、残念ながら95%の確率でその従業員は仕事に前向きに取り組んでいません。言い換えると、その従業員の生産性が高い理由は、その人がワーカホリックだからです。ワーカホリックな従業員は、仕事を「やらされている」と感じていて、いつかバーンアウトしたり、心身の調子を崩してしまったりするリスクがあります。当然、その方のウェルビーイングは低く、もしかしたら、高い生産性を求めてくるあなたのことを快く思っていないかもしれません。
では、生産性を高く維持したままでウェルビーイングを高め、心身ともに健康で生き生きと前向きに仕事に取り組んでもらうことはできないのでしょうか? 産業医・臨床医・脳画像研究者と複数の顔を持ち、国内外で研究が評価されている青木悠太氏に、その秘訣を「ワークエンゲイジメント」という考え方を手がかりに解き明かしていただきました。

ワーカホリックとワークエンゲイジメントの違い

 この10年間でワークエンゲイジメントという概念は一気に広まりました。簡単にいうと、仕事から活力をもらい、仕事に対して前向きな気持ちで取り組み、仕事の生産性が高い状態をワークエンゲイジメントと定義しています。

 ワークとアルコール依存症の合成語である「ワーカホリック」は認知的・感情的には仕事に対して否定的であるのに対して、ワークエンゲイジメントは仕事に対して認知的にも感情的にも肯定的です。同じ仕事量でも仕事に対する認識・感情の持ち方が違うことは、当然、心理的なウェルビーイングについても大きな違いとなります。

 また、ワーカホリックな状態は身体的健康に対して悪い影響があるのに対してワークエンゲイジメントは身体的健康に対していい影響があると考えられています(1)。また、嫌々やらされている状態と会社や仕事に誇りや忠誠心を持っている状態では仕事の質が異なることは容易に想像できます。

(1)Shimazu, Akihito, and Wilmar B. Schaufeli. 2009. “Is workaholism good or bad for employee well-being? the distinctiveness of workaholism and work engagement among Japanese employees.” Industrial Health 47 (5): 495–502.

日本は世界有数のワークエンゲイジメントが低い国

 ギャラップ社の2021年の調査では、ワークエンゲイジメントな状態にある従業員の割合の世界平均は20%です。一方で、日本ではワークエンゲイジメントな状態にある従業員の割合は5%でした。頑張らされているのではなくて、頑張っている社員は20人に1人しかいないのです。これは先進国で最も低い水準で、本稿タイトルで95%の確率で従業員の方が仕事に前向きではないとした根拠です。

 では、従業員のワークエンゲイジメントを改善するにはどうすればいいでしょうか?

「仕事から活力をもらい仕事に対して前向きな気持ちで取り組み、仕事の生産性が高い状態」というワークエンゲイジメントの概念は直感的には理解しやすいものです。しかし、客観的に見るといろいろな要素が絡んでいる概念でもあります。そこで、今回はワークエンゲイジメントに関する理論を簡単に紹介し、どのようなアプローチが従業員の方のワークエンゲイジメントを向上するか検討したいと思います。