――執筆者のスーザン・シャーク氏は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究教授で21世紀中国センターの会長
****
中国と米国の関係はどれほど悪化しているのか? はっきり言おう。米中は競争的な負のスパイラルに陥っており、このままでは両国と世界に大きなダメージを及ぼしかねない。
たとえ両国が、軍事的衝突に発展しないよう競争に(バイデン政権がよく言うように)「歯止めをかけ」たとしても、世界経済の4割を占める二つの超大国間の敵対的なやり取りは、イノベーション(技術革新)や成長に悪影響を及ぼすことになる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の2019年でさえ、世界の成長率は過去10年で最低となっていた。
その原因は、テクノロジーが戦略的競争の焦点になっていることにある。恐怖と相互疑念によって、かつては平和の強固な基盤とみなされていた相互依存性を両国が武器にし、互いに利用し合うようになっている。どちらかの国が重要なテクノロジーや素材の輸出や輸入を突然停止する恐れが出ており――両国は既にそれを始めている――、数十年にわたる有益な協力関係は一転。両国は互いの間に壁を築き、国家主義的な自給自足を追求するようになっている。両国は他国にも自陣に加わるよう圧力をかけ、大半の国が避けたがっている「二者択一」を迫っている。
こうした関係の悪化は、決して不可避ではなかった。経済力や軍事力の差が縮まれば、新興国家と覇権国家が争うようになるのは自明の理だ。いわゆる「トゥキディデスの罠(わな)」だ。しかし、米中の外交政策当局者は何十年にもわたり、その理論が間違っていることを証明してきた。中国の影響力の拡大や非常に異なる政治体制にもかかわらず、両国は極めて良好な関係を築いていた。
しかし、過去6年間(トランプ政権下での4年とバイデン政権下での2年)は、両国とも外交を通じた相違の解決に真剣な努力を払ってこなかった。両国間の信頼構築は国際レベルで何も進んでいない。気候変動や公衆衛生、北朝鮮の核開発計画といった共通の脅威に関する共同の取り組みは、何も行われていない。相互の疎外感は、パンデミックで悪化した。米中間の行き来は途絶え、中国の習近平国家主席は北京にこもりきりになった。その結果、米中関係が両国の国内政治に足を引っ張られるのを阻止できなくなった。