「運動と睡眠」で予防する

 認知症を予防する最も効果的な方法は、「運動」と「睡眠」です。

 週150分以上の有酸素運動で、アルツハイマー病のリスクを2分の1~3分の1に減らせます。週150分なら簡単そうですが、お年寄りには大変な人もいるでしょう。

 体力が弱っているお年寄りは少し歩いただけで息が切れます。本人には「かなりの運動」です。「転んだら危ない」と家族が止めるのではなく、「一緒に散歩しよう」と呼びかけるようにしましょう。

 また、スペインのマドリード大学の研究によると、平均睡眠時間が7時間の人と比べて、6時間以下の人はMCIと認知症のリスクが36%も高まるそうです。認知症は、40代からはじまっている可能性があるので、認知症予防のために、若い頃から7時間以上の睡眠が必須です

 アルツハイマー型認知症の原因物質は「アミロイドベータ蛋白」です。睡眠によって、アミロイドベータ蛋白は毎日掃除されます。睡眠中に脳の容積は大きく縮小し、それによって生じる脳脊髄液の流れが、アミロイドベータ蛋白をきれいに洗い流してくれるのです。

 これを可視化した動画を見ると、ジェット水流のように脳脊髄液が流れているのがわかります。睡眠時間が減ると、「脳の掃除時間」が減ります。アルツハイマー型認知症の発症リスクが飛躍的に高まるので要注意です。

生活習慣病を予防しよう

 認知症には、「脳血管性認知症」と「アルツハイマー型認知症」があります。高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病などのメタボリックシンドロームは、動脈硬化を進めるため、昔から「脳血管性認知症」の危険因子として知られていました。最近では、「アルツハイマー型認知症」においても、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病などの生活習慣病と、認知症の発症に高い相関性が認められています。

 高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病の4つの危険因子のうち、それらを多く持つほどアルツハイマー型認知症の発症数は増加し、3個以上の危険因子を有する人は、3倍以上のリスクとなるという研究があります。

 また高血圧に関しては、老年期ではなく中年期の高血圧と認知症の発症が強く相関するので、年をとってからではなく、中年期から予防していくことが重要です。

 運動、食事などによってメタボリックシンドロームを予防することで、心筋梗塞や脳卒中などの身体疾患の予防だけでなく、認知症やうつ病などのメンタル疾患の予防になるのです。

 また、認知症予防のためには、禁煙も必須です

 喫煙者は非喫煙者より認知症を発症する危険性は45%も高い。WHOの研究によると、喫煙と認知症の発症の間には強い相関があり、喫煙する本数が多ければ多いほど、発症の危険性が高まります。全世界のアルツハイマー病の14%は、喫煙が関係している可能性があると推測されています。

認知症のさらなる予防法

 運動、睡眠、生活習慣病の予防は、認知症予防に必須です。さらに、認知症を予防するために効果的な方法があるので紹介します。

(1)マインド食を取り入れる
 食事は、認知症の予防にかなり役立つことが知られています。

 アメリカのラッシュ大学の研究によると、普段から「マインド食」と呼ばれる食事をとっている人は、アルツハイマー病の発症リスクが53%も低下したそうです。

 ポイントは、肉よりも魚をたくさんとる野菜、根菜類、豆類などをバランスよくとることです。特にサバやイワシ、サンマなどの青魚には、DHAやEPAが豊富に含まれており、血中コレステロールの値を下げ、血液をサラサラにする効果が期待されます。

 それ以外の食品でも、カレー(ウコンに含まれるクルクミンに強い抗酸化作用がある)やコーヒー、緑茶なども効果的です。

 お酒は、飲み過ぎると認知症のリスクを高めます。中程度の飲酒者の場合は認知症リスクを1.5倍、多量飲酒者の場合は4.6倍にも高めます。

(2)孤独を防ぐ
 オランダの研究では、約2000人の高齢の男女を3年間にわたり追跡調査し、社会的孤立と孤独感と認知症の発症の関係を調べています。孤独を感じていた人は、そうでない人に比べて認知症の発症率が約2.5倍に達しました。他にも、「孤独」が認知症の発症と関わる研究は多数あります。

 定期的に人と会ったり、友達と遊びに行ったり、趣味サークルに参加するなど、人間関係を継続するようにしましょう。また、町内会などの社会的な役割を受け持つのも大事です。こうした、孤独を防ぐ活動が認知症の予防につながります。

(3)学び続ける
 高学歴な人ほど認知症を発病しにくいと言われます。千葉大学の研究では、教育年数が6年未満の高齢者は13年以上の人に比べて、男性で3割、女性で2割、認知症を患うリスクが高くなることが明らかにされました。

 これは「認知予備能」と呼ばれ、知識や経験が多い人は、仮に脳細胞が一定数失われても、獲得した知識や経験によってカバーできるため、認知症の症状として表れにくいのです。

 また、年をとっても学び続けるということは重要です。社会人大学や大学院に通ったり、資格や語学の勉強をしたり、カルチャーセンターを利用するのもいいでしょう。日々の読書もいいでしょう。

 また、認知トレーニングも取り入れましょう。新しいことへの挑戦、楽器の演奏、将棋・囲碁などのボードゲーム、クロスワードや数独などのパズルなども、認知症の予防効果があるという研究が増えています。一生学び続けることが、認知症の大きな予防になるのです。

 85歳以上の50%以上が認知症かMCIです。長生きすると、誰もが認知症になってもおかしくありません。

 一方で、予防法とその効果が明確になっているので、きちんと実行すれば、予防できる病気なのです。認知症を予防し、頭脳明晰な状態で長生きできるようになりましょう。

監修 医学博士・精神科医 樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。
コロナ禍に27万部のベストセラーとなった著書『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)のほか、シリーズ90万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)など30冊以上の著書がある。