1990年代に始まったグローバル化ブームは自然に生じたわけではない。共通の「交戦規定(ルール・オブ・エンゲージメント)」を作成し、実施し、順守しようとする経済大国の意思によって円滑に運営されたものだった。その総意がいま崩れつつある。ルールに基づくこの秩序を具現化した世界貿易機関(WTO)は次第に影が薄くなり、各国は国内産業を振興したり、競合国を狙い撃ちしたりするため、輸出規制や補助金、関税に頼り始めている。これを米国のせいだと非難する声は多い。最初はドナルド・トランプ前大統領が、現在はジョー・バイデン大統領がWTOの権限を否定した上で、貿易パートナーの怒りを買うような関税や補助金を導入した。実際、WTOの信頼性はそのずっと以前から中国の台頭と共に傷つき始めていた。同国の権威主義的・国家主義的な経済は、市場ベースの民主主義が第2次世界大戦後に構築した貿易システムとは両立しないことが明らかとなった。
世界貿易の新システム 「警察官」は不在か
WTOの影が薄くなる中、公平な競争はもう望めなくなる
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