コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は6万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し、現在6.1万部。遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。そんな橘氏による「税務調査」に関する寄稿です。

税務署が厳しくチェック!「海外資産」の運用益に要注意!Photo: Adobe Stock

なぜ税務署は「海外資産」を狙うのか?

 今、税務調査における大きなトレンドがあります。それは、「海外資産を持っている人への税務調査」です。

 海外資産とは、たとえば「アメリカの不動産を持っている」「スイスの銀行口座に預金がある」といったような、海外に持っている預貯金や有価証券、不動産の類を指します。下のグラフは海外資産に係る税務調査実績の推移です。

税務署が厳しくチェック!「海外資産」の運用益に要注意!出典:令和3事務年度における相続税の調査等の状況

 平成20年の後半ごろから、「日本の税金は高すぎる」と、お金持ちが海外に移住する流れが顕著になりました。かつては、「亡くなる人と、相続する人全員が海外に引っ越して5年経てば、日本の相続税はかからなくなる」という決まりがありましたから、海外で生活することに不安のないお金持ちたちは、税金の安い国にこぞって引っ越していったのです。

 これに困ったのが、相続税をはじめとして数々の税金を取れなくなる国税です。あわせて、上記の「5年ルール」の抜け穴をついた巨額な相続税回避の事例も生まれ、国税の焦りはさらに増しました。そこで平成29年、日本政府は「5年ルール」だった期間を「10年」に延長するとともに、海外資産に係る税務調査を強化することにしたのです。

海外資産の「運用益」に要注意

 とくにやましいところがなくても、海外資産を持っているだけで、高い確率で税務調査に選ばれます。税務調査に選ばれたところで、やましいところがないのであれば堂々としていればよいのですが、残念なのが、税務調査で痛くもない腹を探られた上で、納税者の「無知」による申告漏れが見つかってしまうケースです。

 たとえば、かつてスイスで勤務していた人が、海外赴任を終えて日本に帰国した後もスイスの銀行に預金したままにしているのは、何の問題にもなりません。自分のお金をどこの国の銀行に預けようが自由だからです。

 ただしその預金から利息が生まれた場合、そのままにしておくと問題が生じます。その利息は、日本で確定申告しなければならないからです。

 この事実を知らない人が、とても多くいます。もちろんみなさん、悪気があって申告しないわけではなく、「知らなかった」がために申告しない人がほとんどなのですが、それでも無申告が見つかると、追徴課税となってしまいます。

 日本に住み、かつ海外で運用益(利息、配当、不動産収入など)がある人は、日本の税務署に申告する義務があります。公明正大に税金を納めていたつもりでも、知らなかったがばかりに海外での運用益を申告せず、そのために追徴課税を食らってしまうのは本当にもったいない。税務署が海外資産に対してピリピリしている時期だからこそ、海外資産の管理と申告はきめ細やかに行いたいところです。