動揺を生んだ
世界遺産のモスクへの改修

 EU加盟が実現すればトルコが得るものは大きい。関税が撤廃され、国民はEU域内を自由に移動できるようになる。その経済的なメリットは計り知れない。

 一方の加盟国の国民の間では、「イスラム過激派」といわずとも、イスラム世界が身近に迫ってくることへの抵抗感が根強い。自宅の周辺にムスリム社会が形成される可能性もありえる。

 現在のトルコは政教分離を原則とした世俗国家で、EU側に対して好印象を与える努力を続けてきた。ところが、エルドアンが大統領に就任すると、イスラム政策がとられるようになる。2020年にはイスタンブールにある世界遺産「アヤソフィア」をモスクにすると発表し、世界を驚かせた。現在のアヤソフィアは6世紀に東方正教会の教会として建てられ、オスマン帝国時代にモスクに改修された。それゆえ、宗教施設ではなく中立の博物館にすることで世界遺産登録された経緯がある。

 ヨーロッパ諸国との摩擦が強まるなかでも、エルドアン大統領はオスマン帝国の継承とイスラム文化の尊重を国民にアピールしており、警戒感が高まっている。

アフガニスタンを混迷させる
タリバン政権の復活

 不安定な情勢が続くアフガニスタン。2021年、長年駐留していた米軍が完全撤退すると、タリバンが首都カブールに攻め入り、早々に政府を倒して権力の座についた。イスラム原理主義による統治を唱えるタリバンの政権掌握は、これが2度目だ。

 アフガニスタンでは国民の99%をイスラム教徒が占めている。宗教的にはまとまっているが、同国は「文明の十字路」といわれるようにさまざまな民族が流入してきた歴史があり、多民族国家となっている。部族社会も根強く残る。そうした複雑な状況が一国家として安定に至らない原因のひとつになっているのだ。