「過去3年の合計漁獲量」による
現行のIQ算定は新参者に不利

 IQは競争過熱による乱獲を防ぐための手段だ。枠を決めれば、漁船は無駄な投資や操業を抑えるため採算をとりやすくなり、資源を守ることもできる。2団体ともIQ導入に総論としては賛成の立場だ。試行段階では参加を見送った全マ協も国管理のIQになった2022年からは参加している。

 なぜ全マ協は「過去3年の合計漁獲量」に基づくIQ算定方式に反発したのか?その理由を水産庁のデータに沿って検証してみる。

 水産庁が資源管理分科会に提出した資料によると、1隻あたり漁獲実績は2019年に近かつ協1.6トンに対し全マ協は4.5トン、2020年に2.2トンに対し8.5トンだった。つまり、直近の勢いでは新規参入した全マ協が圧倒していた。

 しかし、水産庁が業界に示した21年の試験的なIQ枠(4-12月分)は、近かつ協所属漁船242隻分合計で477トン(1隻あたり2トン弱)、全マ協向け5隻11トン(同2.2トン)に過ぎない。

 繰り返しになるが、過去3年間分も遡って合計できる実績がない新参者の全マ協には受け入れ難い内容だった。

 さらに悪いことにIQ枠のうち3割は過去の漁獲の有無を問わず漁船数に応じて均等割り配分することになっていた。

 普通なら新規参入のチャンスを与えると評価されるところだが、これを一律に割り振ったため、直近では近かつ協所属船の何倍も漁獲していた全マ協所属船にとっては足かせでしかなかった。

 一方で、メバチやビンチョウ、サメ類などの漁獲も多く、クロマグロをとらない漁船が3割以上もある近かつ協所属船にとっては大きな「既得権」となる。

2021年のデータは
IQ算定の基礎として採用せず

 近海はえ縄漁船のクロマグロIQ算定方式は2023年までは、2018-2020年まで3年間分の実績と均等割りを併用した方式が続く。

 しかし、2024年からは新たなデータを取り直すことになっていて、現行のように直近3年間分のデータを基礎にするかどうかが争点の一つになっていた。

 当然のことではあるが、試行段階から全漁船がIQに参加することを望んでいた水産庁は、30倍もの格差が生じた2021年の漁獲実績を異常値としてIQ算定から除外したいと考えていた。

 わざわざ水政審資源管理分科会の議題にしたのは、算定方式をめぐり水産庁は全マ協から裁判に訴えられていて、第三者の意見も聞いたという体裁を整えておく必要があったからだ。

 一方、なりふり構わずクロマグロを獲りまくった全マ協の側には、「過去3年間分の漁獲実績の合計」というやり方の修正を求めても水産庁が聞き入れてくれなかったのだから、IQが義務化される前に獲れるだけ獲って実績を積むほかないという経営判断があった。

「21年の漁獲実績は24年からのIQ算定基礎として採用すべきだ」

 全マ協会長の安岡稔金虎丸漁業代表取締役は、参考人として呼ばれた昨年11月21日の水政審資源管理分科会でそう主張した。

 新規参入に不利なIQ算定方式であっても国管理のIQが始まった2022年からは受け入れているのだから、算定基礎データの入れ替えにあたっても実績をそのまま採用すべきだという立場だ。

 これに対し、近かつ協から参考人として出席した山内得信・那覇地区漁業協同組合代表理事組合長は「2021年の実績はバイアスがかかっているので採用すべきではない」と反論した。資源管理分科会の委員の多くは山内氏の意見に同調し、結論は水産庁の思う通りに落ち着く方向となった。

 ただ、漁業者委員からは試験的なIQを始める前に団体間の調整に失敗した水産庁の責任を問う声もあった。改正漁業法のもとではTACやIQを適用する魚種を増やしていくことになっており「明日は我が身」と身構え、近海はえ縄のクロマグロIQ問題を注視する漁業者は多いのだ。