がんの新世代治療薬「エンハーツ」の対象はどこまで広がる?専門医は乳がんの治療範囲拡大に注目Photo:Image Source/gettyimages

がんの薬物治療は、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の登場がそれぞれ第一の波、第二の波を起こした。そして今、抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」が第三の波を生む。特集『選ばれるクスリ』(全36回)の#15では、新世代がん治療薬の開発動向を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

分子標的薬、免疫薬続く
第三の波を生む抗体薬物複合体

 がんの薬物治療は2000年代以降、変化の波が押し寄せている。第一の波は分子標的療法の登場だった。

 がんの薬物療法はそれまで、化学療法が行われてきた。この化学療法で使う細胞障害性抗がん薬は、がん細胞に対する殺傷力を持つが、同時にがん以外の正常な細胞も攻撃して傷つけた。

 対して、分子標的療法はがん細胞をピンポイントで攻撃する。この治療に使う分子標的薬は、2001年に乳がん治療薬「ハーセプチン」(一般名:トラスツズマブ)や慢性骨髄性白血病治療薬「グリベック」(一般名:イマチニブメシル酸塩)が登場したのを皮切りにどんどん開発が進み、がん治療の主役となっていった。

 分子標的薬には、標的にする因子によって「レンビマ」(一般名:レンバチニブメシル酸塩)や「ネクサバール」(一般名:ソラフェニブトシル酸塩)などのキナーゼ阻害薬、「アービタックス」(一般名:セツキシマブ)や「ベクティビックス」(一般名:パニツムマブ)などの抗EGFR抗体、「アバスチン」(一般名:ベバシズマブ)や「ザルトラップ」(一般名:アフリベルセプト)などの抗VEGF抗体といったさまざまなタイプがある。

 この分子標的薬の進化が進むことで、第二、第三の波が生まれた。

 14年、悪性黒色腫治療薬として小野薬品工業の「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)が登場した。これが、第二の波であるがん免疫療法の始まりだ。

 がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬という新しいタイプの分子標的薬で治療を行う。このタイプはがんを直接攻撃するのではなく、がんを攻撃する免疫に関わる部分を標的にする。

 がん細胞は攻撃する体内の免疫細胞に対して、攻撃にブレーキをかけるシグナルを出してくる。免疫チェックポイント阻害薬はこれを防いで、免疫細胞ががん細胞を攻撃するスイッチをオンにするのだ。

 さらに第三の波を起こしているのが、抗体薬物複合体(ADC)である。