選ばれるクスリ#31Photo:©Eggy Sayoga/gettyimages

国内で患者数が多い肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、乳がん、前立腺がんのうち、肺がんの薬物治療は最も個別化医療が進み、遺伝子変異の有無を事前に検査して薬を選択するようになった。特集『選ばれるクスリ』(全36回)の#31では、肺がん治療薬の処方患者数ランキングを公開する。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

個別化医療が最も進む肺がん
3位に分子標的薬の「タグリッソ」

 肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、乳がん、前立腺がん。国内で患者数が多い六つのがんの薬物治療の実態を見ると、肺がんで「プレシジョンメディシンが一番進んでいる」と、がん研有明病院副院長兼総合腫瘍科部長の高橋俊二医師は言う。

 プレシジョンメディシンとは、がんの原因となった遺伝子変異に効果があるように作られた分子標的薬で治療するもので、個別化医療の一種だ。がん種によってこの個別化医療の進展に明らかな差があり、肺がんが最も進んでいるのだ。

 肺がんは「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)に大別され、ここでは患者の約8割を占める非小細胞肺がんについて取り上げる。

 薬物療法は手術後、あるいは手術や放射線治療以外の治療が選択肢になる患者が対象だ。

 肺がんは遺伝子変異を原因としたものが多い上に、変異する遺伝子の種類が多岐にわたる。こうした特性があることから分子標的薬の開発が早くから進んでおり、EGFR、ALK、ROS1、BRAFといった遺伝子が変異しているケースで有効な分子標的薬が使える。

 しかもそれらの遺伝子において変異の有無を調べる遺伝子検査を事前に受けられる。この検査結果によって、個々に合った分子標的薬が選べるのだ。従来の化学療法では正常な細胞も攻撃してしまうのに対し、分子標的薬はがん細胞をピンポイントで攻撃できる。

 では、病院など医療機関ではどんな薬が選ばれているのか。ダイヤモンド編集部は、医療情報サービスを手掛けるメディカル・データ・ビジョン(MDV)とDeSCヘルスケアのデータを基に肺がん治療薬の処方患者数ランキングを作成した。

 ランキングでは、EGFR阻害薬の「タグリッソ」(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)が処方患者数3位となった。

 EGFR遺伝子の変異は該当する患者数が多く、これまでにもさまざまな分子標的薬が開発されてきた。タグリッソはEGFR阻害薬の中でも新しい世代だ。EGFR遺伝子変異がある場合は1次治療に使える。

 次ページでは、肺がん治療薬の処方患者数ランキングを全公開する。2位には新しいタイプの薬がランクインした。