日銀の物価目標“長期化”で何が変わる?タスク管理の「いつかやる」と同じだPhoto:Bloomberg/gettyimages

アベノミクスで掲げた物価目標「2%」の見直しが議論されている。タスク管理アプリや歯医者を例に考えると、内容を理解しやすくなる。(東京大学大学院経済学研究科教授 渡辺 努)

2%物価目標の見直し議論
タスク管理アプリと同じ

 政府・日本銀行が2013年に出した共同声明(アコード)を、日銀総裁の交代のタイミングで見直すべきと議論されている。

 焦点は物価目標の扱いだ。13年のアコードでは2%という目標値を明示するとともに、それを「できるだけ早期に実現することを目指す」としていた。

 しかし、最近の議論では、例えば令和国民会議(令和臨調)が1月公表した文書に見られるように、2%の目標値の位置付けを「長期的」な目標へと変更することが提案されている。また、物価目標の「柔軟化」といった表現もしばしば使われる。

 ところで、「長期的」や「柔軟化」とは何を意味するのか。そして、その方向への修正がどのような帰結をもたらすのかについて、スマホのタスク管理アプリを例に考えてみたい。

 筆者の使うアプリでは、例えば「テストの採点」というタスクを入力する際に締め切り日も入力するのが普通だ。

 だが、入力時に締め切り日を明確にせず、「いつか」というフォルダに放り込んでおく選択肢もある。

「できるだけ早期に実現することを目指す」としていた13年のアコードは、タスクと同時に締め切り日を指定する入力だ。対して、令和臨調などに代表される「長期的」といった提案は、「いつか」のフォルダに放り込んでおけばよいと言っているように聞こえる。

 筆者の場合、「いつか」のフォルダに入れるのは、例えば、「歯医者に行く」というタスクだ。虫歯があるので治療を受けるようかかりつけの歯科医には言われている。だから、いずれはやらなければいけないタスクだ。そうは自覚しつつも、「いつか」のフォルダに放り込んである。

 なぜそうしているかというと、(1)今は他のことで忙しくて医者に行く時間の余裕がない、そして、(2)とりあえず今は痛みがない、からだ。(1)はタスク実行の費用、(2)はタスクを果たすことで得られる便益だ。費用が便益を上回るので「いつか」のフォルダに投げ込む。

 物価目標の「2%」も事情は同じように見える。