「黒い看板の吉野家」には
3つのポイントがある

 吉野家のように100年の歴史がある老舗の飲食チェーンが売り上げを伸ばすには、新しい顧客の開拓が必要になります。

 例えば、吉野家のライバルのすき家を運営するゼンショーは最近、ロッテリアを買収すると発表しました。ゼンショーは他にも回転寿司のはま寿司やファミレスのココスなどさまざまな異業種の飲食チェーンを展開しています。

 このように、異業種展開は飲食チェーンにとってのひとつの成長戦略です。

 ただ「まったく異なる味、まったく異なる顧客層」を狙った異業種展開は当たり外れのリスクも大きく、ゼンショーのように「牛丼でも回転寿司でも業界トップクラス」という状況に到達するのは簡単ではありません。

 そこでもうひとつリスクが小さい成長戦略として、「既存のチェーンに新しい顧客を取り込む」という手段があり得ます。牛丼の例で言えばこれまでは男性が固定客の中心でしたから、女性客が増えれば企業として売り上げの成長につながります。

 吉野家から見れば論理的には新しい顧客層としての女性客の取り込みと、将来の固定客への育成を期待した子どもを連れた家族客の取り込みは長期戦略的には重要な目標なのです。それで5年ほど前に試験的に導入されたのが黒い看板の吉野家で、冒頭にお話しした恵比寿駅前店がその1号店なのです。

 さて、この黒い吉野家戦略ですが、私のような経営戦略の専門家から見ると、細部の設計で非常に面白く感じるポイントが3つあります。

(1)独自メニューがそれほど多くないこと
(2)店舗数が全体の15%と少数派であること
(3)なんちゃって黒い吉野家が存在すること

 ということなのです。

 絶妙というか戦略的というか練り込まれたバランスのいい、この3つのやり方について簡単に解説してみます。

 まず最初に気づく点は、メニューの観点で黒い吉野家とオレンジの普通の吉野家にはそれほど大きな違いがないということです。ドリンクバーとデザートのカップアイスが置いてあるあたりは明らかに違うのですが、メインメニューだと限定メニューは大きく3点しか違いません。