米中対立の影響をもろにうける韓国経済と格差問題
ところが、18年に出生率は1.00を切って0.98に低下し、少子化は年を追うごとに加速している。
一因として、若年層の雇用・所得環境の急速な不安定化は大きい。18年、韓国にとって最大の輸出先である中国では、公共事業の削減などによって景気減速が鮮明化した。加えて、米国のトランプ政権(当時)が対中制裁関税などを実施し、世界全体で中国を中心に張り巡らされてきたサプライチェーンが混乱した。また、中国では産業補助金などの積み増しによって国内の半導体メーカーの成長が加速し、サムスン電子などは中国企業から追い上げられ始めた。
韓国国内では、革新派の文在寅(ムン・ジェイン)前政権によって、大幅な賃上げが行われた。18年、最低賃金は前年比16.4%、19年は同10.9%引き上げられた。これにより中小企業の経営体力は低下し、経済全体で雇用は減少した。労使の対立も激化した。事業運営体制を維持するために、採用を抑えつつ、従業員の賃上げ要請に応じざるを得なくなった企業も多かった。また、米中対立や中国企業との競争に対応するために、韓国から海外に生産拠点を移す企業も増えた。
こうした結果、韓国の失業率は上昇し、経済格差は深刻化した。特に、15~29歳の雇用は他の世代に比べて大きく失われた。その一方、文政権は支持率維持のために高齢者の短期雇用策を強化するなどし、世代間格差が拡大した。また、韓国では首都圏への人口流入による需要増加期待と世界的な低金利環境を背景に、ソウルなどでマンション価格が急騰した。住む場所を手に入れるために借り入れに頼る家計は増えた。
労使対立の先鋭化による企業の事業運営の効率性低下、家計の債務問題を背景とする潜在的な金融システムの不安定化懸念、出生率低下による内需縮小などを背景に、韓国株を売りに回る投資家は徐々に増えた。そして20年以降、新型コロナウイルス禍が発生したこと資金流出が急速に増え、韓国はFRBによるドル資金供給により窮状を乗り切った。
このように国内景況感が目まぐるしく変わってきたことも、出生率低下を深刻化させた要因と考えられる。