三代歌川広重 「文明開化絵 東京名所 両国橋之景」トム・ニコラス教授は、日本の明治・大正時代のイノベーションについて研究を行っている(写真はイメージです) 提供:アフロ

アメリカのベンチャーキャピタル史の専門家として有名なトム・ニコラス教授は、日本の明治・大正時代のイノベーションについても研究を行っている。なぜ、明治・大正時代の日本はイノベーション大国だったのか。また、現在の日本でイノベーションが創出されにくくなっている理由は何か。ニコラス教授に聞いた。(取材・構成/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

明治・大正時代の日本人は
熱心に発明に取り組んだ

佐藤智恵:ニコラス教授はアメリカのベンチャーキャピタル史の専門家として有名ですが、日本の明治・大正時代のイノベーションをテーマとした論文も多数執筆されています。なぜ、当時の日本人はこれほど熱心に発明に取り組んだのでしょうか。

トム・ニコラス:明治・大正時代の日本人が発明に取り組んだ動機は主に三つあったと思います。一つ目は、純粋な知的好奇心です。文明開化によって日常生活が大きく変わる中で、日本人の好奇心が刺激され、新しいものを生み出したいという意欲が国全体に高まっていったのです。

 二つ目は、金銭的なリターンです。明治政府はイノベーションを促進するために、発明家が相応の対価を得られるような法律や金融システムを整備していきました。発明家はコンテストに入賞すれば賞金や報奨金を得ることができましたし、仲介機関を通じて、特許を企業や個人に売ることができました。