シーズン前に準備したい
最新の花粉症治療とは
毎年、花粉症に苦しむ人にとって“花粉症の根治”は、ぜひ取り組みたい治療といえる。ただ、多くの医院で採用されているアレルゲン免疫療法という花粉症の治療法では、花粉のシーズン中に開始することができない。
「アレルゲン免疫療法では、例えばスギの花粉症の方に対しては、スギの花粉成分を体に取り入れることでスギ花粉症の体質を治していくことになります。スギ花粉のシーズン中には、スギ花粉に敏感な体になっていますから反応が強く出てしまうのでリスクが高いのです」
少し花粉症が落ち着いた5~7月頃に、病院に受診して免疫療法に取り組むことで、半年後に効果が表れてきて、翌年の花粉シーズンには症状が軽くなる人が多いのだという。
アレルゲン免疫療法(減感作療法)には、舌下免疫療法と皮下免疫療法の2種類がある。昔は体内に抗原を入れる手段が皮下免疫療法に限られており、「減感作療法」という場合は皮下免疫療法を指すことが多い。だが現在は、舌下免疫療法を採用している医院が多いそうだ。
「お子さんに舌下免疫療法を行うと、その後ぜんそくのようなアレルギー性疾患の発症を減らしたという報告もあります。全員に効果が出るわけではありませんが、かなり多くの方に効果が出ています。今、花粉症がつらいと悩んでいるのであれば、花粉症が落ち着いて安心するのではなく、一度病院に行って免疫療法について検討されることをお勧めします」
また、薬の効果が十分とはいえない人には、レーザーを照射して鼻の粘膜を変性させる手術を行うことで、くしゃみや鼻水といったアレルギー反応が改善させることもあるという。さらに、鼻の中の構造自体が狭い方には鼻の仕切り(鼻中隔)をまっすぐにしたり、下鼻甲介という鼻の中の大きい構造物を小さくしたりすることで鼻の空気の通り道を広げる手術が行われることもあり、鼻腔形態改善手術と呼ばれるとのこと。
「レーザー手術も、花粉症のシーズンから外れた時期に行う治療になります。シーズン中に『症状を和らげる』ために手術を行うことは、まずありません。ただ、今年だけはなんとか症状を軽減したいという人には、新しい薬である『オマリズマブ』の処方を検討する場合があります」
オマリズマブを使用するためにはいくつかの条件があり、またやや高価な薬剤ということもあって使用は限定的。だが、効果は高いという。
「オマリズマブを注射することで、早い段階で花粉症に対する効果を期待できます。オマリズマブを用いた治療は、花粉症の根治を目指す体質改善を進めるものではありませんので、花粉のシーズンが過ぎてから改めて舌下免疫療法に取り組むように勧めることが多いです」
スイッチOTCなどを活用して今年の花粉症を乗り切って、症状が落ち着いた後には忘れずに医院を訪れて、免疫療法を始めてみるのはいかがだろうか。
前田陽平氏:2005年大阪大学医学部医学科卒業。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。医学博士。市中病院勤務、大阪大学医学系研究科・耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教を経て現在JCHO大阪病院耳鼻咽喉科部長。臨床・研究の専門領域は鼻副鼻腔疾患・アレルギー疾患・経鼻内視鏡手術など。一般耳鼻咽喉科についても幅広く診療している。