ヒューマンエラーが格段に減り
人件費・物流コストを大幅に削減

 困難を打開する決め手となったのは、優秀なエンジニアと出会ったことだ。これにより、システム開発は軌道に乗り出した。「社内にIT専門の部署がないため、フリーランスのエンジニアと契約し、規模や金額など自社に合ったIT化を試行錯誤した」と箕田社長は振り返る。

 12年からは、顧客がECサイト上で必要な情報を入力すると自動的に加工指示書にデータ変換するシステムの開発に取り組んだ。その指示書にはバーコードが付いており、ミシンに取り付けたバーコードリーダーに読み込ませると、自動的に刺しゅう加工されるシステムだ。16年、実用化した。 

 システム開発には合計で約2500万円かかったが、東京都中小企業振興公社の新製品・新技術開発助成事業を活用することで出費は半分に抑えられた。

 さらに一昨年から、表計算ソフトのマクロを利用して顧客の注文を製造データに変換するというシステム化も取り組んでいる。

 以前はECサイトのシステムで、名入れの表記、文字カラーなどの細かな要望を入れられる注文フォームがなく、顧客が備考欄に記入していた。そのため、顧客の入力ミスが発生したり、適切な製造データに作り直す作業を外部オペレーターに依頼したりして、発送までに数日かかるなど非効率だった。

 それが最近、ECサイト側で注文フォームの改良があり、全てのデータをCSVで取り込んで製造データに変換できるようになった。そのため外注が不要となり、ミスもほぼなくなって出荷スピードが大幅に向上した。

 こうしたDXに取り組みだしてから、ヒューマンエラーが格段に減った。オペレーターも8人から3人でまかなえるようになり、残業代も減って人件費はDX以前の5分の1になった。一方で、周辺の商業施設よりもパートの時給を少し高めに設定するなど、メリハリを付けている。

 結果、離職率も低下した。以前は産休・育休に入るとそのまま退職する人が多かったが、DX後は復職がスタンダードになった。

刺しゅう加工会社のミノダが試行錯誤の末に獲得したDX成功の秘訣IT化による業務改革を推進。大量の注文にもミスなく対応できるようになった

 物流も改善した。以前は、企業向けの刺しゅう加工は、顧客の商品を東京本社に集約してから、従業員がトラックで自社工場の木更津ファクトリー(千葉県木更津市)や外注工場に配送していた。DX後は、本社を介さず顧客から各工場へ商品を直接発送するスキームを導入。ドライバーや車両の管理費、倉庫代など1カ月で約300万円のコスト削減に成功した。

 EC事業では、商品発送時に送り状が必要だ。かつては注文書、加工指示書、納品書、送り状を別々に作成していたため、繁忙期にはぼう大な出荷作業に追われていた。

 DX後は、注文書にあるバーコードを読み込めば、加工指示書、納品書、送り状など一気通貫で作成できる。送り状に関してはヤマト運輸のシステムを活用するなど、一つのシステムで全てをまかなうことをせず、社内システムと外部システムの連携というかたちでDXを実現してきた。

 同社の木更津ファクトリーでは、20人弱の社員・パートが働いており、IT化された一連の作業の様子が一目で分かるようになっている。そこは、外注する協力工場が業務効率化を学ぶ場であり、取引先や一般顧客に対しては品質管理を徹底しているという安心感や信頼を醸成する場となっている。ここをロールモデルとして、さらなるDXの進化を目指している。