背景にジェンダーバランスの不均衡
作家の思いにつけ込む「ギャラリーストーカー」も

 アート業界でも、ここ数年ハラスメントに関した問題提起が相次いでいる。

 2020年頃からは「表現の現場調査団」が、表現に関わる人を対象としたハラスメント実態調査や、表現の現場でのジェンダー不均衡の調査を行っている。

 この調査からは、アート業界で、指導的立場やコンテストの審査員に男性が多く、一方で学生は女性が多いという実態が浮き彫りになっている。

 ジェンダーの不均衡が、地位的に上の立場にある男性が、教えを受ける立場の女性に言うことを聞かせやすい構造を作り出してしまっており、セクシャルハラスメントの温床となりかねないことを示唆する。

 このような状況を憂慮する人たちからすれば、今回の「職権濫用」投稿は、見過ごせないものだったであろう。これが冗談などではなく、実際に長年行われてきた実態であるからだ。

 アーティストを狙う「ギャラリーストーカー」も話題になっている。3月29日に報じられたのは、大阪市の画廊がギャラリーストーカーに対しての警告文をSNSで発表し、話題になったというニュース(『作家への付きまといに警告 「ギャラリーストーカー」対策』共同通信/3月29日 )。

 ギャラリーストーカーとは、展示の際に画廊に立つ作家に声をかけて長時間話し込んだり、なれなれしく振る舞って関係を持とうとする人たちのこと。

 今年出版された『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』(猪谷千香)では、多くの女性作家がその被害に遭い、展示の客だけでなく、キュレーターや評論家からもハラスメント被害を受ける実態が明らかにされている。

 作品を多くの人に見てもらい、知ってもらわなければならないという思いにつけこみ、関係を持とうとする加害者がいる。まさに「職権濫用」である。