前述のデスクによると、19人はホテルの5部屋を貸し切り、生活用と仕事用を使い分けていたという。仕事用の部屋には十数台の事務用机が2列に並び、その上にパソコンが配備されていた。ホワイトボードには日付や日本人とみられる漢字やカタカナの名前が記載され、見た感じはまるでオフィスだったらしい。

 生活は意外に質素で、食事は1階のレストランを利用していたものの、酒類のオーダーはほとんどなし。現地の公用語であるクメール語や植民地時代に使われていたフランス語も話せないため、ホテル関係者との会話もなかったという。

 いずれも観光ビザで入国していたが、時期は数カ月前から約2年前とバラバラ。現地の警察に対しても「観光目的だった」と説明しているというが、リゾートなのにもかかわらずホテルから外出することもなく、ほとんど部屋に閉じこもっていたようだ。

 摘発の端緒は、現地の日本大使館に「ホテルに特殊詐欺グループの拠点がある」とタレコミがあったことだ。1月下旬に現地の警察が強制捜査し、19人の身柄を拘束するとともに、大量の携帯電話、犯行マニュアル、被害者名簿などを押収していた。

「ルフィ」などの詐欺グループが
東南アジアを拠点にする理由

 特殊詐欺事件を巡ってはここ数年、日本の警察が取り締まりを強化したため、指示役が東南アジアに拠点を移しているとみられている。理由として時差が小さく、携帯電話の購入時に個人情報の登録が不要ということが背景にあるようだ。

 これを裏付けるように、国内の拠点摘発は2017年の68件をピークに、22年は20件まで減少。一方で21年の被害額は282億円、20年は285億円と摘発件数が激減しているわりにさほど減っていない。

 なぜかと言えば、単純な話だ。世界に誇る捜査能力を持つ日本の警察とはいえ、海外に法的な権限はないからだ。国内で末端は摘発できても、海外に滞在する本体には届かない。だが「許可」さえ出れば、すぐにも執行できる情報はつかんでいる。

 言葉は悪いが、詐欺グループはそれなりの組織系統を作ったとはいえ、しょせんはやさぐれた「人間のクズ」(前述のデスク)の集まり。法的な知識を持ったプロ集団とは頭のレベルが違う。日本の警察は権限さえ与えられれば、いつでも動き出せるのだ。