テレビCMの影響も危険、コーヒーにも警告表示が必要か
そのリスクをさらに高めているのが、テレビCMによるイメージ訴求だ。
神木隆之介さんや杉咲花さんという若い世代に人気の俳優を起用して、会議や大学の授業中にぼうっとしている彼らの姿とともに、「起きてる?(いろんな意味で)」「目覚ましボス」などのキャッチコピーが登場する。「レッドブル」などのエナジードリンクが、「翼を授ける」なんてコピーで抽象的なイメージを訴求するCMにとどめているところを、ボスカフェインはストレートに「これを飲めば覚醒します」と効果をうたっているのだ。
このようなCMを朝から晩まで見た若い世代、特に未成年者の子どもたちの中には、サントリーが出した「効果てきめんなエナジードリンク」を愛用する者も出てくるはずだ。授業や部活の前に眠たくなる度にボスカフェインをグビっとやる。昼休みにグビッ、放課後にグビッ、そして家に帰って受験勉強でグビっという感じで、1日のカフェインは600mgだ。そこにオンする形で、エナジードリンクでも入れたら、不測の事態が起きる恐れもあるのだ。
ただ、もし筆者が恐れているようなことが現実にならなくても、そう遠くない未来、ボスカフェインのような商品は「警告表示」が必要になるのではないかと思う。
具体的には、タバコや酒のように「カフェインの摂取し過ぎは健康を損なう恐れがあります。特に未成年者や幼児、妊婦は摂取を控えてください」というような文章を、パッケージの目立つところにつけなくてはいけなくなる。
タバコや酒もちょっと昔まで、警告表示なんて話をしたら、「いちいちそんなのつけて売れなくなったらどうするんだ?」「なんでも飲み過ぎたら体に悪いだろ、そんな当たり前のことを表示する必要はない」なんてボロカスに反発されたが、今ではタバコも酒もその表示が当たり前になっている。カフェインもおそらく同じ道をたどるのではないか。
しかも、サントリーの場合、「ストロングゼロ」のケースもある。ご存じの方も多いと思うが、このストロング系チューハイ市場をけん引する人気商品は、一部の医療従事者や、依存症対策の専門家から、いわゆるアルコール中毒などの「問題飲酒」との関連性が指摘されている。「危険ドラック」などと厳しく批判する専門家もおり、今回のボスカフェインの炎上でも、ストロングゼロも引き合いに出して、「売れれば消費者の健康は二の次なのか」という感じで、サントリーの企業姿勢に苦言を呈する人々もいる。
アルコールもWHOが「世界戦略」として規制を各国政府に呼びかけている。そのため、タバコの次はアルコール規制が世界的に強まっていく、というのはよく言われることだ。日本でもちょっと前に、アルコールを含んだグミがコンビニで売られており、子どもが手に取りやすいポップなパッケージだったことが批判されて、メーカーが謝罪して、出荷も停止されたことがあった。
「不寛容社会」と感じる人もいるだろうが、こういう子どもの健康を守るという観点からの規制強化の流れは、残念ながらさらに加速していく。「SDGs」がわかりやすいが、日本は基本的に西側諸国が決めた「国際ルール」に素直に従ってきた。だから、タバコもアルコールもなんやかんやと、「国際ルール」に迎合させられている。
ということは、ボスカフェインも危ない。「エナジードリンクみたいな缶コーヒー」は縮小する缶コーヒー市場の救世主になるのか、それとも「時代の変化に伴って消える幻の商品」になるのか。注目したい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)