アーンスト・アンド・ヤング(EY)が会計監査とコンサルティングの事業分離を中止することが明らかになった。両事業の利益相反を解消する狙いだったが、米国法人が反対に回った。日本事業を統括するEYジャパンの分離も見送られる。長期連載『コンサル大解剖』の本稿では、EYジャパンで検討が進んでいた再編計画の中身に加え、分離中止が日本のコンサル市場に及ぼす影響を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 名古屋和希、山本 輝)
EY「監査・コンサルの利益相反」解消狙うも…
EYジャパンで検討進んだ再編計画の中身とは
「プロジェクト・エベレスト」はさまざまなチャレンジが見えてきたので中止する――。
ビッグ4の一角、アーンスト・アンド・ヤング(EY)のグローバル会長兼CEO(最高経営責任者)、カーマイン・ディ・シビオ氏は4月11日、39万人の従業員宛てに、そんな内容のメールを送った。
EY内部でプロジェクト・エベレストというコードネームで呼ばれていたのが、会計監査とコンサルティングを分離する構想である。かねて高い独立性が求められる監査とコンサルティングは利益相反の懸念が指摘されてきた。
EYの分離構想は昨年9月に突如浮上。米エンロンの会計不正を受けて米アーサー・アンダーセンが解散した2002年以来の大型業界再編として注目を集めた。
分離のメリットは大きい。監査とコンサルの利益相反は解消され、「資本主義の番人」ともいわれる監査の透明性が高められる。さらに、分離は監査に比べ成長率が高いコンサルビジネスの拡大が見込めるという“副産物”もある。
現状、監査とコンサルを企業に同時に提供することは制限されている。例えば、EYの監査先企業に、EYがコンサルを提供するのは実質的にできないのだ。4大大手による寡占状態も相まって、顧客の選択肢を狭めてしまうという問題があった。
分離すれば、これまではコンサルを提供できなかった監査先にリーチでき、顧客にとっても選択の幅は広がる。分離構想は、単に利益相反の解消にとどまらず、コンサルビジネスの拡大も期待できる一挙両得の一手だったといえる。
EYの分離プロセスは、予定では23年初旬にパートナーによる投票が実施され、同年中にも分割が実行されるはずだった。しかし、これに待ったをかけたのが、売り上げ規模が大きい、つまり“声の大きな”米国法人である。
米国法人の中には、特に税務部門の分割に対する慎重論が根強くあったとされる。税務は監査とコンサルティングにとって重要な分野である。税務部門を2つに分割することで、双方が今後も成長に必要な人員を確保できるかどうかという懸念の声が上がったのだ。
グローバルのEY幹部には当初、分割への楽観論もあったようだが、次第にこんな意見が台頭する。「分割によって両方とも競争力が落ちてしまっては元も子もない」(EY関係者)。分離の議論を深める中で、難題が浮上してきてしまった格好だ。
今回の分離中止は、日本でも関係者に驚きを持って受け止められた。EYの分離は、日本のコンサル市場の動向にも大きな影響を及ぼすことが予想されていたからだ。
日本事業を統括するEYジャパンは分離に向けて着々と準備を進めていたもようだ。次ページでは、EYジャパンで検討が進んでいた再編案の中身に加え、分離中止が国内のコンサル業界の競争環境に与える影響を明らかにする。