トヨタ自動車が当初計画を前倒しし、2026年までにEV150万台を販売する計画を掲げた。テスラが10年余りをかけた目標を3年で実現するという野心的な目標だ。だが実は、この目標にトヨタの戦略・方針転換と言えるほどの意味はない。特集『半導体を制する者がEVを制す』の#12では、トヨタがテスラ以上の目標を掲げた「意外な理由」について解説する。また、EVシフトによりトヨタが抱えることになる「三つの重大課題」についても解き明かしたい。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
トヨタ「EV150万台」は戦略転換ではない!
テスラ以上の目標を掲げた真相とは
5月10日、トヨタ自動車は決算説明会で2023年3月期の営業利益が3兆円になる見通しを公表した。実現すれば日本企業としては前人未到の偉業を達成することになる。
しかし、トヨタ経営陣に好決算に浮かれている様子は見られない。むしろこれから始まる巨額投資競争を前に、気を引き締めているといえそうだ。
決算に先立ち、トヨタは「26年までに電気自動車(EV)を150万台販売する」という目標を掲げた。21年末に示していた「30年にEV販売350万台」という目標を前倒しにしたのだ。
トヨタの現段階でのEV販売台数は3.8万台と微々たるものだ(23年3月期)。EV150万台は先駆者の米テスラが10年余りをかけて伸ばした数量であり、それをわずか3年で達成するという極めて高いハードルだ。
だからこそ報道では、この野心的な計画に対して「ついにトヨタがハイブリッド車(HEV)などの内燃機関車からEVへのシフトに本気になった」との論調が目立つ。
だが、この150万台という数字に戦略や方針転換と言えるほどの意味はない。実はこの数字をひもとく鍵は、最重要エリアの米国市場にあるのだが、一体どういうことなのか。
次ページでは、トヨタが急遽、EV150万台を掲げた「意外な理由」について解説する。
また自動車業界では、EVを起爆剤とした新たなゲームが始まっている。EVシフトにより、トヨタが抱えることになる「三つの重大課題」についても解き明かしたい。