半導体を制する者がEVを制す#8Photo:REUTERS/AFLO

日本のパワー半導体業界の再編が始まりそうだ。経済産業省は、電気自動車(EV)時代の戦略物資となる次世代パワー半導体「SiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)」の国内生産能力の増強を図るため、巨額の補助金を用意して日本メーカーの設備投資を支援しようとしている。特集『半導体を制する者がEVを制す』の#8では、これをめぐる業界再編の動きを追う。(ダイヤモンド編集部 村井令ニ)

EV戦略物資「SiC」パワー半導体
経産省が巨額補助金で再編促す

「3~4年前まで日本の自動車メーカーは『SiC』には見向きもしなかったが、電気自動車(EV)化の速さでパワー半導体の業界の空気が一変している」(政府関係者)。

 自動車産業のEVシフトとともに、次世代パワー半導体が注目を浴びている。パワー半導体とは、EVの電動システムをコントロールしてドライバーの操作に合わせたスムーズな駆動を実現するために欠かせない重要部品のことだ。

 特に、化合物「SiC」を使ったパワー半導体は、現在主流のシリコン製のパワー半導体に比べて電力消費を大幅に抑えることが可能で、EVの航続距離を伸ばす戦略部品になろうとしている。

 米テスラが2017年に「モデル3」に初採用したのを手始めに、海外自動車メーカーを中心に、SiCパワー半導体の採用が加速しており、生産増強の投資が過熱している。

 それを象徴するのが、今年2月に欧州で発表された米半導体大手ウルフスピードの巨額投資だ。ドイツ西部のザーランド州に約30億ドル(約4500億円)を投資して、世界最大級のSiCパワー半導体工場を建設する計画だ。

 これに対して日本のパワー半導体業界では動きが鈍い。ローム、三菱電機、富士電機、東芝、デンソーがSiCを手掛けているが、日系自動車メーカーのEV化の遅れもあり、設備投資の規模やスピードは見劣りがする。

 このため経済産業省は、日本の半導体メーカーを支援するため巨額の補助金を用意して、業界再編を促す姿勢を鮮明にしている。

 思惑が渦巻く中で水面下では動きが出てきているようだ。その軸になりそうなのが「ローム・東芝連合」と「レゾナック陣営」だ。次ページでは、日本のパワー半導体業界を取り巻く危機を描くと共に、再編“最終形”の姿に迫る。