ロマンとビジョン

 こうした関係性が築かれていくなか、企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)が創設されることになりました。ただ、個人版ふるさと納税とは違って手続きが非常に煩雑なため、制度をつくっても目立った実績は上がらないのではないかと政府は懸念していました。しかし、財政の厳しい夕張市にとってこの制度は大変ありがたい制度であり、全国の自治体にとっても軌道に乗ればたくさんの新しい試みが実施できるだろうと考えました。

「それなら、この制度が成立したらすぐ、似鳥さんに相談してみよう」と思いました。

 似鳥会長がよく口にする言葉は「ロマンとビジョン」です。世のため、人のために人生を懸けて貢献する「志」を持つことが「ロマン」。ロマンを持って仕事に向き合い、それを実現するのに必要な目標や計画を持つことが「ビジョン」です。「夕張の破綻は北海道の低迷の象徴だった」と語る似鳥会長は、夕張のことを破綻当初から案じ、応援を続けてくれていました。

 寄付というのはそこに寄せる思いとともに、世の中の耳目を集めて応援の機運を高めるうえで「一番乗り」にも意味があります。私はそう考えました。

「日本を代表する企業であるニトリが、企業版ふるさと納税の第一号として夕張に寄付をすると表明すれば、必ずや注目される。ニトリが先陣を切れば、あとに続く企業が次々と出てきて、政府の懸念も払拭されるはずだ。ニトリからの寄付金は、夕張のまちを今後十年で変えていくことに使わせていただく。夕張をずっと応援してくれているニトリにふさわしいし、似鳥会長の言う『ロマンとビジョン』にも合致するはずだ」

似鳥会長に直談判

 私は思い切って、似鳥会長のもとへ直談判に行きました。

「企業版ふるさと納税制度が始まって最初に日本一の寄付をすれば、記憶にも記録にも残ります。それをやるのは、今までずっと北海道を応援してくださっているニトリ以外にありません。ぜひ、お願いします」

 その場で似鳥会長は3億円もの寄付をすることを即決。その額に驚いた私は、ふるさと納税の制度をつくった菅義偉官房長官と石破茂地方創生大臣に、これから企業版ふるさと納税の普及を進めるうえで素晴らしい一歩になるだろうとの思いから電話をしました。

 その直後、似鳥会長から電話が入り、

「3億円寄付しようと思っていたが……」

 てっきり、「これはやはり金額が多すぎて減額されるのだろうな」と身構えていたら、

「5億円寄付することにしたよ、夕張の未来のために」

 私は驚きのあまり、「ふ、増えるぶんには大変ありがたいことです……」とお伝えするのがやっとでした。